【『新しい女は瞬間である 尾竹紅吉/富本一枝著作集』刊行記念】2023年のアナキズム×アート×フェミニズム
『新しい女は瞬間である 尾竹紅吉/富本一枝著作集』
(皓星社)刊行記念トークイベント
“2023年のアナキズム×アート×フェミニズム”
――向上には時間的余裕がない。だから新しい女の最も恐るものは智的墜落である。
――今や、個人、社会に生存競争の激しいその時に在って、自分一人さえ本当に好ましい、正しいものにする事のどれだけ困難であるか。
――あっちへゆけ、歪められた一切のものよ。
今から130年前の春、富山の日本画家の家に一人の女性が生まれました。名前は尾竹一枝。
尾竹三兄弟の越堂を父にもち、竹坡・国観ら叔父のもとで幼い頃から芸術に触れてきた彼女は、10代にして日本画家としての素養を花開かせていきます。同時期に女性誌『青鞜』では〝尾竹紅吉〟のペンネームで活躍し、結婚後は〝富本一枝〟と名をかえ、一貫して男性中心主義の社会において、女という役割が暗黙のうちに引き受けてきた抑圧に執筆と支援とで抗い続けてきました。
その象徴とも言えるのが、バーや遊郭への見学を発端とした青鞜の二大スキャンダル「五色の酒」「吉原登楼」事件。新聞雑誌のあらゆるメディアで「新しい女」の中心人物とされ、大炎上したその顛末は、まさに現代の大炎上とも言えるものでした。表題作「新しい女は瞬間である」は、そんな従来の女性規範から外れた存在を異端視する社会ではなく、自らと同じ苦しみを持ち、同じ偏見に晒されている女性たちへ向け、自我意識の爆発を一枚の絵を描くアクションを例に説いた、多感で自由な一枝ならではの名文です。
生涯を通して、地理的・精神的な意味合いにおいても周縁から社会を見つめ続けてきた一枝。
あれから100年以上が経った今、同じ苦しみを抱えたまま私たちは生きています。変革を許さない社会に疑問を持つあなたへ。努力し続けつつ何者にもなれない99.9%のうちの一人であるあなたへ。そんなあなたにこそ、一枝の言葉はきっと力になるはずです。
イベントでは、編者の足立元さんをお迎えし、一枝という人間の魅力に迫ります。お越しいただいた皆様には、本書の編纂にあたりページ数の都合から泣く泣く削ったという未収録作品の資料もお配りします。
「なぜいま、尾竹紅吉/富本一枝?」「アートの世界から考えるフェミニズムって?」「書き続けるというアナキズム的自己実現」など、本書を片手に一緒に考えてみませんか?
【日時】11/11(土)19時半〜(トーク50分+質疑応答〜)
【場所】IRREGULAR RHYTHM ASYLUM 東京都新宿区新宿1-30-12-302 ☆現地参加のみ
【登壇者】トーク:足立元さん(編者)、聞き手:楠本夏菜(皓星社)
【費用】500円(資料代)+カンパ制
【お申し込み】こちらから
☆『新しい女は瞬間である 尾竹紅吉/富本一枝著作集』の情報はこちら
【著者】
尾竹紅吉/富本一枝(おたけ・べによし/とみもと・かずえ)
1893年4月20日、富山市に日本画家・尾竹越堂の長女として生まれる。女子美術学校中退、1912年18歳で雑誌『青鞜』に参加。自ら付けた紅吉(べによし)の筆名で表紙絵を描き、詩や文章を発表したが、『青鞜』の二大スキャンダルとされる「五色の酒事件」及び「吉原登楼事件」の当事者となり“新しい女”として世間の非難を浴びたため、9ヶ月で青鞜社を去った。1914年20歳で月刊誌『番紅花(サフラン)』を神近市子、松井須磨子らと創刊するも、陶芸家の富本憲吉との結婚により6号で終刊。15年より奈良県安堵村(現・安堵町)で暮らし、26年一家で上京。47年中村汀女を援けて句誌『風花』を創刊、48年には長女の陽とともに児童図書出版の山の木書店を創立した。結婚後も『中央公論』『女人芸術』を始め各誌に文章を寄せ、晩年は雑誌『暮しの手帖』に童話を発表するなど、最晩年まで文筆活動を続けた。1966年9月22日没。
【編者】
足立 元(あだち・げん)
1977年東京都生まれ。日本近現代の美術史・視覚社会史を研究。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業、同大学大学院美術研究科博士後期課程修了。現在、二松學舎大学文学部国文学科准教授。著書に『アナキズム美術史 日本の前衛芸術と社会思想』(平凡社、2023年〔『前衛の遺伝子 アナキズムから戦後美術へ』(ブリュッケ、2012年)の増補新版〕)、『裏切られた美術 表現者たちの転向と挫折 1910-1960』(ブリュッケ、2019年)。