◆『雑誌記事索引集成』に継ぐ快挙
山口昌男(文化人類学)
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文献から必要な情報を見つけ出すには、経験とセンスを要する。人物の場合、まず人名辞典を見ることになるが、現在流布しているものは現在の価値観で人選、記述されているので、少し立ち入ったことになるとほとんど役にたたない。
その結果、『日本人物文献目録』などの索引類を手がかりに、各時代に刊行された個々の人物情報文献に当たることになる。公称3万人とも5万人とも言われる分厚いページを繰る分にはなんとも頼もしい重量
感だが、大きな空白があることは意外に知られていない。それは人物文献の宝庫である叢伝類の目録化、索引化が未着手で、手探りを余儀なくされるということである。
今回、人物誌・人名録・人名辞典類を含む叢伝資料を調査し、重要資料の復刻と被伝記の索引からなる大規模な人物情報大系が企画された。これにより、先の空白を埋めると共に、近代日本の人物群の潜在的ネットワークを掘り起こせる。近世から占領期に刊行された人物情報に、だれでも容易にアクセスできるようになったことは、『雑誌記事索引集成』完成に次ぐ快挙で、皓星社の表傍する「知のインフラ」と呼ぶにふさわしい仕事であろう。 |
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◆『日本人物情報大系』を推薦する
紀田順一郎(作家)
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このほど皓星社から刊行される『日本人物情報大系』は、歴史的な人物情報の集大成であるという以上に、重要な意味をもっている。
我が国の人物誌は従来きわめて不備なもので、多くは個人伝記、自伝だけに着目しているに過ぎず、それさえも十分でないというのが現状である。このほかに膨大な列伝(叢伝)という沃野があるのに、ほとんど未開拓なため、あたら宝を横目に見ながら指をくわえてきたに等しい。理由は、量
の前にたじろいできたのであって、無理かぬところもあるが、研究者にとっては書誌学の世界水準から見ても甚だ物足りないところがあった。
膨大な量の文献資料の電算処理が可能な時代を迎え、いつかは誰かが手がけるものと期待していたが、その期待以上の水準において皓星社版『日本人物情報大系』が実現する。近代の各界の人物をすべて網羅した圧倒的なスケールで、これまでの不足が一挙に解消するような思いである。この資料・索引は『雑誌記事索引集成』と同様、あらゆる学校、図書館、研究機関、個人研究者に推薦したい。今後すべての人物検索は、ここから出発しなければなるまい。 |
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◆現代が待望する大企画
色川大吉(東京経済大学名誉教授・歴史家)
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人間を知ること、それが、知的な仕事の基本である。歴史上、各時代各界に業績や逸話を残した人物は数万、数十万と数を知らない。その中から自分がいま必要としている人物の情報をひきだそうとなると、これがまた大変なのだ。それにぴったりの文献が見当たらないからである。もちろん、これまでも人物情報について、伝記史料集成や人名辞書や人物文献目録など幾つも刊行されてきたが、コンピュータ時代の現在の水準で見ると、きわめて不充分であり、検索にもたいそう手間どる。
それに対し、この新企画『日本人物情報大系』は情報量を飛躍的に増やしたばかりか、パソコンによる検索を可能にした索引編を持っている。その上、この100巻を、女性編、憲政編、国学・漢学編等々という各分野に体系化して刊行するという総合的な観点に立っている。これこそ現代が待望する大企画であり、まさに世紀の偉業ということができよう。 |
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◆人へのまなざし
鶴見俊輔(評論家)
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伝記を相互参照することから人へのまなざしが深まります。そのために伝記を集めてたよりにしてきましたが、それにも限界があります。情報化社会の研究者は図書館をたよりにする他なく、図書館にはそれだけに要求も募ります。私たちは、本大系のような本を必要とします。あらゆる図書館、研究施設に設置されんことを望みます。 |