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再開第1回 性的指向が違う人を好きになってしまったら

私は好きだった学校の先輩(同性)と喧嘩しております。彼は、2つ上で、彼が卒業して社会人一年目の時に助けられて好きになり、彼を恋人だと思うようになりました。その後は、彼が好きで好きで仕方なくなり、束縛してしまい、俗に言うヤンデレやメンヘラ的な行為をしてしまい、それが原因で彼と疎遠になってしまいました。

彼は男同士の結婚を気持ち悪いとLGBT差別をしていた人で、ある時にLGBT(同性愛)の話に彼が反対し、私が怒ったら、「お前は、死んだ方がいいかな? とか言ってくるけど、 本当に死んだ方がいいと思うよ。二度と俺に関わってくるな」などと悪口を言われました。

その後SNSで私に対する誹謗中傷アカウントを作り、私の本名や顔写真や教えてない最寄り駅を晒し、元さんは死刑だの同性愛は気持ち悪いだの誹謗中傷を浴びせられ、当然そのアカウントは通報しました。

私はひと月後、彼と仲直りするためのアカウントにて、誹謗中傷アカウントを作った事を指摘したら、作った覚えはありませんとしらを切り、それを友人に相談したらまた彼の誹謗中傷アカウントが見つかり、今度は私以外の人も標的になっていました。このとき彼は誹謗中傷ツイートを消し、アカウントの情報を変えて逃げました。その後相談した友人が彼に注意してくれて、彼が謝罪したのですが、そこで「本当反省してる? もう差別はしない?」などと私が聞いたらまた消して逃げました。

彼は表面はいい人ですが、裏は性格悪い人で羊の皮を被った狼のような人なのですが、今後彼とまた親密な関係に戻るべきなのでしょうか?

(元さん・18歳・男性)

回答:相手を尊重し、人との距離の取り方を学びましょう

SNSでの誹謗中傷は許されるものではありません

こんにちは。ご相談を寄せてくださり、ありがとうございます。大変な思いをされていますね。

まず、先輩がSNSで行ったという、元さんの本名、顔写真、最寄り駅などの個人情報をさらし、「元さんは死刑だ」「同性愛は気持ち悪い」といった誹謗中傷を行ったことは、許されることではありません。

法律的にはプライバシー権の侵害や名誉毀損、侮辱が問題となる可能性があります。

場合によっては、弁護士さん等に相談し、対処する必要が出てくるかもしれません。

 

人を好きになることは自然なことですが……

次に、差別について考えてみましょう。

元さんは「LGBT」を同性愛という意味で使っているように見受けられますので、同性愛ということで書いていきますね。

大変なときに助けてくれた先輩の優しさに触れ、その人を好きになることは、自然なことです。しかし、異性愛であれ、同性愛であれ、相手も自分のことを好きになってくれるとは限りません。

ましてや、性的指向が異なる場合、どれほど相手を恋い焦がれたとしても、想いが成就することは難しいですね。

ここで深呼吸し、一度先輩の立場になって考えてみましょう。

社会人一年目という大変なときに、後輩を気づかい助けてくれた先輩。ここで先輩と後輩の関係のままであればよかったのでしょうが、元さんは先輩を恋人だと思ってしまいました。

元さんは先輩を束縛し、「ヤンデレやメンヘラ的行為」をして、それが原因で先輩と疎遠になったと書いていますね。また、「お前は、死んだ方がいいかな? とか言ってくるけど、 本当に死んだ方がいいと思うよ」という先輩の言葉はひどいものですが、元さんが先輩に対し、繰り返し自分の死をほのめかしたり、死んだ方がいいのかと問い続けてきたのだとしたら、見方も少し変わってきます。

元さんが今18歳で、先輩が2つ上であれば、先輩もまだやっと20歳になったばかりなのです。若い先輩でなくても、どんな人でも元さんを背負うことなどできません。

社会人となり環境ががらりと変わりプレッシャーなどもあるところで、後輩を助けたことで想いを寄せられ、「ヤンデレやメンヘラ」行為をされた先輩。しかも、「LGBT」を“差別”する人だと、先輩は悪者にもされてしまいます。

 

 同性愛を拒否することは、差別になるのか

ここで一つ目の疑問が生じます。

いかなる性の形であろうと、人に迷惑をかけず、互いの合意があればその性の形は尊重されねばなりません。性とはその人の人格の根本に関わる問題であり、他人が強制してよいものではないからです。

では、ここで先輩が「同性愛」を拒否することは、本当に「差別」なのでしょうか。

わたしは、誤解や偏見などに基づき不当に扱うことを、差別というのではないかと思います。

しかし先輩には、元さんと同性愛を拒否する理由があるように思います。当事者であり、利害関係がある一個人が同性愛についてどう思おうと、それだけでは差別にはならないと思いませんか。

元さんによると先輩は同性愛者ではなく「二度と関わるな」と、元さんと距離を取りたがってもいます。しかし元さんは、誹謗中傷をされたと言いながらも「仲直りするためのアカウント」で、先輩と関わろうとしていますね。

元さんだけでなく、先輩は元さんの友人にも責められ、謝罪をしたら今度は「本当反省してる? もう差別はしない?」と、詰め寄られてしまう。

先輩は逃げたいのに、元さんは逃がしてくれない。これは、別の視点に立つと、元さんが先輩にストーキング行為をしているとも取られかねません。

人を追い詰めすぎると、巡り巡って自分を苦しめてしまうことがあります。誹謗中傷ツイートについて謝罪を受け入れ、先輩と距離を取っていたら、互いによかったのではないでしょうか。

 

先輩の人格・性の在り方も尊重する必要があります

 

同性愛の方たちが自分の望まない「性」の在り方を強制されてはならないように、例えば異性愛者の方に同性愛を受け入れろと強いてしまったら、それもまた価値観の押しつけになってはしまいませんか。

元さんは「今後彼とまた親密な関係に戻るべきなのでしょうか」と質問を結んでいます。

親密な関係に戻るためには、相手の同意が必要です。性や恋愛関係において、相手である先輩が「NO」といったら、それは「NO」です。そもそも先輩は、元さんの文章を見ても、元さんと恋人関係になったことはないようです。先輩の人格、性の在り方を尊重してあげてください。

「性格悪い人で羊の皮を被った狼のような人」にこだわる必要はないと思います。元さんは、まだ18歳と若く、これからも様々な人と出会っていくと思います。人は生きている以上、出会いと別れを繰り返してゆきます。

わたしが父と死に別れなければならなかったように、別れは避けて通ることができません。わたしがいくら涙を流そうと父が帰って来ないように、別れもまた、人生の一部です。

 

人にいろいろな考えがあり、それを変えるのは難しい

自分を変えることはできても、人を変えることは難しいということを、今回の経験から学ぶことができればいいのではないでしょうか。

この日本では、パートナーシップ制度が認められつつあるとはいえ、同性愛は社会から完全に受け入れられたとは言えない状況です。元さんはこれから社会に出て行ったとき、いやな思いをしたり、差別されたり、いろいろな経験をするでしょう。

人は異質なもの、理解が及ばないもの、自分がそうなるとは想像したくないものに対して、恐怖し、差別や排除をすることで、今までの秩序や観念を守り、心の安定をはかりがちだと感じます。

わたしも加害者の家族ということで、様々な経験をしてきましたが、多くの場合は唇を噛みしめて相手を変えることはできない、私の存在、加害者の家族という存在に慣れてもらうしかないと思い、耐えてきました。

もちろんわたしも、すべての差別を黙って耐えてきたわけではありません。国家による差別や、大学の入学拒否、教団にわたしの派閥があるなどと事実でないことを根拠として、国家に監視を求める文章を公開した弁護士に対する名誉毀損訴訟など、一部の差別とは闘ってもきました。

これは、わたし自身の問題でもありましたが、行きすぎた差別を容認してしまうと、わたしの家族や多くの加害者とされる人たちの家族が同じ被害にあい、「あなたは加害者の娘だから大学に入学できません」といったことがまかり通る社会を作ってしまうと思ったからです。

わたしは、加害者の家族というのは特別な存在ではない、ある日突然誰でもなり得て、どこにでもいるということを知ってもらうためにも、実名と顔を出し情報の発信を続けています。

 

終わりに

 

「LGBT」や同性愛の概念は、性の多様性やアイデンティティを守り、性的少数者が迫害や差別を受けることなく、一個人として尊重され生きていくために必要なものです。世界では過酷な差別が続いており、命を奪われてしまうこともあります。

「LGBT」が今後より多くの人に受け入れられていくためにも、何でも「LGBT」への差別として扱わず、人と人との距離の取り方を学んでいって欲しいと思います。

よかったことはよかったこととして人生の糧とし、先輩が勇気づけてくれたことには感謝し、前を向いて、これから様々な人たちとの出会いを通じて、強く生きていってほしいです。

 

 

 

松本麗華(まつもと・りか)
松本麗華(まつもと・りか)

1983年4月生まれ。2015年3月、自身の半生を振り返る手記『止まった時計』を出版。執筆の他、こころの暖和室あかつきにて相談員として活動中。文教大学臨床心理学科卒。日本産業カウンセラー協会所属。現在は、自身が「犯罪加害者」の家族として歩んできた経験を元に、生きづらさ、社会的マイノリティなどについて弱者の立場に立った意見をツイッター・ブログ、執筆活動、イベントなどで発信している。

ブログ:自由をもとめて
Twitter:松本麗華@RikaMatsumoto7