自動車工場の闇(鎌田慧セレクション5)
省力化、そして無人化という人間否定を、人間性否定にむかわせないために。鎌田ルポの原点となる2冊を収録。
夢も希望も奪い去る、トヨタ自動車の非人間的労働環境を暴いた『自動車絶望工場』、繁栄の翳りが見える自動車産業を克明に追った『トヨタと日産』を収録。
ひたすらに生産効率を追求するベルトコンベアの労働は、人間と人間社会にどのような変化をもたらしたのか。
この巻に収められたのは、自動車産業の動向ではない。工場労働の現状報告である。
わたしの関心は、繁栄を支えたベルトコンベアの労働過程のなかでの、人間の状況である。労働者がどのように扱われてきたのか。労働の標準化、人間の機械化、生産性のためだけに、人間を支配する。資本主義の極限を求めたなかで、人間と社会にどのような変化があったか、ということだった。
--「あとがき 生産の効率化と人間性」より
発売日 | 2025年5月14日 |
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ページ数 | 416 ページ |
定価 | 3300円(+税) |
判型 | A5判並製 |
装幀・造本 | 藤巻亮一 |
カバー写真・ イラスト |
風間サチコ |
ISBN | 978-4-7744-0845-3 |
目次
はじめに 生産システムの人間支配 7
乾いた雑巾を絞る 「トヨタ社員は過労死」名古屋地裁判決
棄民の一世から出稼ぎの三世へ 日系ブラジル人を襲うトヨタショック
第一部 自動車絶望工場 ある季節工の日記 33
第一章 季節工8818639番(一九七二年九月) 35
出迎え/体力検査/第三大林和風寮/トヨタ自動車本社工場/同室者/
ミッション組付コンベア/給料日/娑婆から地獄へ/眠れない夜/
単調さを破る試み/四二億円の大増資
第二章 新記録を可能にしているもの(一九七二年一〇月) 62
標準作業/ぼくの作業内容/大気汚染の主犯/「金さえもらえばいい」/
自動車総連結成/一分二〇秒のサイクル/一分一八秒に/トヨタの持家制度/
日産七六〇台態勢へ/賃金明細書/ロボットの叛乱/やって来た季節工たち
第三章 〝脱落者〟たち(一九七二年一一月) 88
「トヨタマンは人間ではない」/哀しい笑い話/辞める季節工たち/
生産累計一〇〇〇万台/無限動力者/限界を越える労働
第四章 増産・労災・不満(一九七二年一二月) 102
むなしい労働のくりかえし/労災死亡者の扱い方/風呂での対話/
衆議院選挙投票日/部品の支配/人間トランスファーマシン/
年産二〇〇万台突破/労働者と〝外套〟/また労災の発生/
「あいつを呼ぼう」/「反対だけど……」
第五章 ついに昼夜二交替(一九七三年一月) 117
日産八〇〇台態勢/半期の利益三二〇億円!/バイオリズムと感電/
一分一六秒に/一六歳の深夜労働/工藤君病気で倒れる/真夜中の怪談/
「一丸となって前進」/労働時間のり取り
第六章 期間満了!(一九七三年二月) 133
トヨタ式海外進出/トヨタの中の自衛隊/「愛される車を世界に」/
一分一四秒に/五木村からの出稼ぎ/入院した季節工/
後任者はあっけなく退職/〝無期懲役者〟たちとの別れ
第七章 もう一度豊田へ(一九七三年四〜五月) 146
季節工たちのその後/アルバイト/調理師学校の夢/職業病未認定患者/
ぼくの後任者たち/「会社はうまくできている」/殺人ライン/
桃太郎とキビダンゴ/副委員長と保安係/人間と機械の競争
補章 トヨタ式合理化の歴史 163
二一四六名の首切り/『覚え書』をめぐる謎/「労使宣言」の効果/
トヨタにおける身分別組織/トヨタにおける提案制度/
トヨタ式生産システム/安上がり工場進出法/織機と軍隊/悲しみの・豊田
補章の補章 キカンコーとハケン 185
あとがき(ベルトコンベアについて) 196
文庫版あとがき 200
新装増補版あとがき 201
資料 解説 本多勝一 202
資料 新装増補版 解説 重松清 207
第二部 トヨタと日産 自動車王国の暗闇 213
Ⅰ いま自動車産業に何が起きているか 215
「チャレンジ50運動」の挫折/クルマの生産を担う陰のひとびと
Ⅱ トヨタ王国の裏側 228
生産性向上運動のはてに/豊田、地域支配の構図/不思議の国の暗部
Ⅲ 自動車工場のなかの人間 259
苦役としてのベルトコンベア/檻のなかで——日産のタレントたち/
トヨタの住宅政策/クルマの繁栄は何をもたらしたか/
自動車産業、繁栄の翳り
Ⅳ 日産の現場では…… 305
追浜暗黒工場/日産ディーゼルの反乱/ある労働貴族の軌跡
Ⅴ 日米自動車戦争の行方 368
生き残りを賭けたアメリカ進出/日本的忠誠心の輸出/果てしなき拡大/
あとがき 397
文庫版へのあとがき 399
あとがき 生産の効率化と人間性 鎌田慧 401
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