明治出版史上の金港堂 社史のない出版社「史」の試み
近代出版史研究の画期 《第8回ゲスナー賞銀賞受賞》《第41回日本出版学会賞》
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〈この本が紹介されました〉
・佛教タイムス 2019年5月23日
・週刊読書人 2019年6月21日
・週刊読書人(「2019年上半期の収穫から」) 2019年7月26日
・古文書研究 2021年6月28日
膨大な資料の収集、検証、そして批判。
先行研究なき教科書肆の歴史を記述し、
未開の「史」の研究手法を明らかにする。
明治教科書や二葉亭四迷『浮雲』等の出版、商務印書館設立者として明治を代表する金港堂と社主の原亮三郎。
本書はその金港堂を主軸に近代出版史を紐解く。
出版史研究書ながら、近代史研究の史料論・方法論の書ともいえる大作。
著者 | 稲岡勝 |
---|---|
発売日 | 2019年3月29日 |
ページ数 | 416 ページ |
定価 | 8,000円(+税) |
判型 | A5判上製 |
装幀・造本 | 藤巻亮一 |
ISBN | 9784774406718 |
推薦
稲岡さんは怖かった。都立中央図書館特別文庫室の受付で相好崩さず終始作業に集中している姿に、まだぺいぺいのころの私は近寄りがたい威圧感を覚えていた。「なぜ役人附ばかり見ているのか」と突然声を掛けられた時など私の何かがきゅっと縮んだ。これは稲岡さんの論文を読んでしまっていたことが大きい。「金港堂小史―社史のない出版社『史』の試み」は衝撃であった。近代出版史における教科書出版の重要性を初めて具体例を以て説得的に示した画期的な大論文である。透徹した見通しの下、徹底した資料収集とそれらを駆使した論の盤石たること、そして先行研究をバッサリ切り伏せる筆の切れ味、対象とする時代や分野は異なっていたものの、同様に出版史研究を志す私をびびらせていたのである。その後も若輩を縮み上がらせるような論文を精力的に執筆し続け、今なお近代出版史研究の最先端としてこの分野を牽引している。今回上梓の一冊は、今後も揺るぎない指針としてわれわれを導き続けてくれるにちがいない。背表紙を見て、きゅっと引き締まりながら、私も後を追いかけていくことにする。
――鈴木俊幸(中央大学教授)
近代史に足を踏み入れた者ならば、書肆「金港堂」や社主の「原亮三郎」とはどこかで出会っていることだろう。たとえば明治期の教科書や二葉亭四迷『浮雲』等の奥付で、あるいは多額納税者として、あるいは商務印書館の設立者として。本書は、その金港堂の営為を主軸にして近代出版史を記述するものである。そして、その記述をがっしりと根底から支えているのが副題「社史のない出版社「史」の試み」だ。既存の史資料や社史は信頼するに足るのか。他にどのような史料がどこにあり、どのようにアプローチしていけばよいのか。その史料をどのように読み、解釈するのか。そもそも史料の信頼性とはなにか。およそ「史」を構築する=語るにあたって取るべき調査・検証・批判の実例がここにある。本書は出版史研究書であるとともに、近代史研究における史料論・方法論の書でもあるのだ。
今後、「史」に携わる者にとって必読となるであろう、鶴首待望の書の刊行である。
――磯部敦(奈良女子大学准教授)
目次
まえがき
第一部 「社史」の方法および出版史料について
〈第一章〉金港堂「社史」の方法について
〈第二章〉近代出版史と社史
〈第三章〉明治出版史から見た奥付とその周辺
〈第四章〉「原亮三郎」伝の神話と正像──文献批判のためのノート
〈第五章〉近代出版に関する複刻版資料
〈第六章〉『大勢三転考』の出版願と版権免許証──稲生典太郎氏旧蔵一件文書について
〈第七章〉見立からみた明治十年代の出版界
第二部 出版史料としての公文書
〈第二部口上〉明治出版史と学事文書
〈第一章〉明治前期教科書出版の実態とその位置
〈第二章〉明治前期小学教科書の製作とその費用──『東京府地理教授本』を一例として
第三部 明治出版史上の金港堂
〈第一章〉明治検定期の教科書出版と金港堂の経営
〈第二章〉明治検定教科書の供給網と金港堂──『小林家文書(布屋文庫)』の特約販売契約書
〈第三章〉金港堂の七大雑誌と帝国印刷
第四部 雪冤長尾雨山──文部省図書審査官と教科書疑獄事件──
はじめに
〈第一章〉運命の異動
〈第二章〉教科書事件の大疑獄
〈第三章〉長尾槇太郎(雨山)の官吏収賄裁判322
〈第四章〉官吏収賄裁判の実相
〈第五章〉漢文科廃止事件と長尾雨山
〈第六章〉帰隠洛陽市(帰りて洛陽の市に隠れ)──帰国後の雨山
〈第七章〉東西の隠君子──狩野亨吉と長尾雨山
第五部 日中合弁事業の先駆、金港堂と商務印書館の合弁一九〇三─一九一四年
はじめに
〈第一章〉「金港堂の支那事業」
〈第二章〉三井物産上海支店長山本条太郎
〈第三章〉有限公司商務印書館の設立
〈第四章〉『支那経済全書』の商務印書館像
〈第五章〉張元済の最初の訪日と市島春城
〈第六章〉合弁解消(日資回収)の途
〈第七章〉『実業之日本《支那問題号》』と商務印書館
結び
あとがき
著作目録及び初出一覧
索引
イベント
稲岡勝 刊行記念講演「書物から見た明治の出版―金港堂を中心に」
――満員御礼! 皆様お越しいただきありがとうございました。
著書刊行を記念し、稲岡勝先生の講演会を開催いたします。
当日は会場内にて、日本近代文学館様および先生ご家蔵の金港堂出版物の展示も行います。ぜひお運びください。
2019年6月8日(土)14時〜16時(13時開場)
参加費:500円(資料付)
会場:日本近代文学館 会議室
稲岡勝(いなおか・まさる)
1943年、上海生まれ。すぐ近くに商務印書館があった。早稲田大学政治学科および図書館短期大学別科卒業、1972年から東京都立図書館勤務。1999年から都留文科大学国文学科教授情報文化担当、専攻は明治の出版文化史。10年勤めて退職後は図書館、文書館、古書展に通い埋もれた出版者を手掘り中。執筆予定としては「教科書トラスト帝国書籍の成立と崩壊」、また山梨県の地方新聞『甲陽新報』(印刷は内藤伝右衛門)も取りあげたいテーマである。