鏡の中の錯乱 シルヴィア・プラス詩選
『ベル・ジャー』の作者、早逝した詩人の本領がここに。——小川公代氏推薦!
「プラスの詩は、数々のペルソナを渡り歩き、いくつもの〈役割〉に引き裂かれながら生きる女性の強烈な生へのエネルギーで満ち溢れている」(小川公代)。
女性であることの「受難」の奥深くに分け入ってみずからの想像力を解き放ち、「マイナー文学」としての詩的言語を創造したシルヴィア・プラス。生前唯一の詩集『巨像』、死後刊行され一躍評価を高めた『アリアル』や『冬の樹々』ほかより精選した詩篇にくわえ『三人の女』を収録。最適の訳者による日本独自の詩選を新たな装いで刊行。自伝小説『ベル・ジャー』で知られるピューリッツァー賞受賞作家の本領がここに。
| 著者 | シルヴィア・プラス |
|---|---|
| 編者 | 水田宗子 |
| 訳者 | 水田宗子 |
| 発売日 | 2026/11/7 |
| ページ数 | 296 ページ |
| 定価 | 3,000円(+税) |
| 判型 | 四六判上製 |
| カバー写真・ イラスト |
Photo by Bettmann/ Getty Images |
| ISBN | 978-4-7744-0898-9 |
推薦
*小川公代氏推薦文「多様性を讃美しながら」
「愛や結婚にはつねに危険がある。自分は聖女になるのか、悪女を貫くのか。優しい母の役割を担うのか、あるいは結婚を拒み反抗者となるのか。《荒野の雪だるま》という詩では花嫁は屈服して犠牲者として生きることを拒み、強者である夫を逃れるが、荒野のむき出しの脅威と対決し、徹底的に打ちのめされる。
シルヴィア・プラスが生きた時代に女性として生きるとは、そういう矛盾に満ちた〈生〉と格闘するということを意味していた。彼女自身も、このような犠牲者意識に苦しめられながら、反抗心を失わない詩人として言葉を紡いだ。プラスは〈小さい〉ものと〈巨大なもの〉の間で葛藤する女性たちに呼びかける。〈さあその両側に坐りましょうよ。その光り 導き その鏡のような多様性を讃美しながら〉(《誕生日の賜物》から)。
プラスの詩は、数々のペルソナを渡り歩き、いくつもの〈役割〉に引き裂かれながら生きる女性の強烈な生へのエネルギーで満ち溢れている。それはまさに〈危機を内包しながらようやく均衡を保つ〉自己矛盾の美学なのだ」
*編訳者の言葉(「新版あとがき」より)
「多くの読者と批評家がプラスについて知るようになったのは1971年の『ベル・ジャー』のアメリカでの出版である。この自伝的小説は1963年にはヴィクトリア・ルーカスという筆名で、そして1966年にはシルヴィア・プラスの名でイギリスでは出版されていたが、夫の詩人テッド・ヒューズや母親アウレリアの強い要望でアメリカでは遅くまで出版されなかった。しかし、この小説の出版こそがプラスと当時台頭してきていたフェミニズム第二派――女性の沈黙領域に蓄えられてきた隠された傷痕、女性として生きることの抑圧、痛みなど内面の秘密領域の掘り起こし――の批評を一気に推進するきっかけとなったといえるだろう」
「1970年代に入ってからの大きな波のうねりのようなフェミニズム批評の台頭は、シルヴィア・プラスの作品が世界で、なかでもアメリカで読まれはじめたことと深く結びついている。(…)私はプラスの詩の世界に没入することで女性のトラウマ、抑圧の傷痕を堀り起こすフェミニズム表現、思想、批評が歴史的、文明的な課題、ユダヤ人虐殺や広島の原爆の暴力と人権陵辱の被害者の沈黙した表現に向かい合うことでもあること、プラスの詩の言葉と世界がその危機に満ちた世界をまるごと表現していることに深い衝撃を覚えた。(…)プラスははじめて女性が女性として書く詩表現、その世界のなかで生き延びようとする弱い命の苦悩を現代詩に臆することなく女性詩のテーマとした詩人だが、戦争と暴力と弱いものへの略奪の文明への抵抗の世界のテーマ化がフェミニズムの本質的な思想の根底を形成することを教えてくれたのだった」
「2019年、私はオックスフォード大学での講演の帰りにロンドンのシルヴィア・プラスの家を訪れた。この緑深い公園のそばのフィッツロイ・ロードの家はプラスがテッド・ヒューズと別れて子供たちと住んだ家だが、1962年末から自殺をする1963年2月まで住んだ家である。この家はアイルランドの詩人W・B・イエーツが住んだ家でもあり、プラスはこの家を見つけて大変喜んだと言われている。またこの家が気に入ったプラスはここを終の住処にしたいと考えていたとも伝えられている。それにもかかわらず、たった3ヵ月ほどでふたりの子供たちの朝食のミルクを部屋の前に置いて壮絶な自殺を果たしてしまったのである。家の前に立って私は胸を突かれてどっと涙が出た。そして一挙に私のなかの50年の時間と距離が消えた。プラスの詩はいまでも強い衝撃と激しく感情を揺さぶる言葉で読者の実存風景を変貌させる力をもちつづけているのだ」
目次
巨像 より
荘園の庭/死体置き場のふたつの風景/出発/巨像/ローレライ/蛙の秋/独身女/ほしい ほしい/すべての死んだいとしい人たち/蜂飼いの娘
三人の女 三つの声のための詩
アリアル より
配達人/霧の中の羊/切り傷/楡の木/十月のひなげし/死株式会社/ニックと燭台/メデュサ/月といちいの木/マリアの歌/誕生日の賜物/百三度の熱/蜜蜂巣箱の到着/七月のひなげし/端/絞首刑人/チューリップ/レスボス/刺し傷/アリアル/ラザロス夫人/おとうちゃん
冬の樹々 ほかより
不安/水仙のあいだで/健忘症/他人/サリドマイド/立ち聞きする人/父なし子に/子のない女/見学/几帳/冬の樹々
シルヴィア・プラス 受難の女性詩人 水田宗子
後記
新版あとがき
参考文献
【著者】
シルヴィア・プラス(Sylvia Plath)
1932年ボストン生まれ。1955年、スミス・カレッジ卒業後ケンブリッジ大学ニューナム・カレッジに学ぶ。在学中の1956年、イギリスの詩人テッド・ヒューズと結婚。1960年、詩集The Colossus and Other Poemsを、1963年、ヴィクトリア・ルーカス名義で小説The Bell Jar (田中融二訳『自殺志願』角川書店1974、青柳祐美子訳『ベル・ジャー』河出書房新社2004、小澤身和子訳、晶文社2024)を刊行。同年2月死去。没後刊行の詩集Ariel (1965/ 徳永暢三訳『エアリアル』構造社1971)で一躍評価を高め、ヒューズ編The Collected Poems(1981)でピューリッツァー賞詩部門受賞。そのほか詩集にWinter Trees (1971), Crossing the Water (1971/ 高田宣子、小久江晴子訳『湖水を渡って』思潮社2001),散文集にLetters Home: Correspondence 1950–1963 (1975), The Bed Book(1976/ 長田弘訳『おやすみ、おやすみ』みすず書房2000), Johnny Panic and the Bible of Dreams (1977/ 皆見昭、小塩トシ子訳『ジョニー・パニックと夢の聖書』鷹書房弓プレス1980), Mary Ventura and the Ninth Kingdom(2019/ 柴田元幸訳『メアリ・ヴェントゥーラと第九王国』集英社2022)などがある。
【編・訳】
水田宗子(みずた・のりこ)
水田宗子(みずた・のりこ) 1937年東京生まれ.1960年、東京女子大学英米文学部卒業。1970年、イェール大学にて博士号取得。詩人、比較文学、女性学研究者、批評家。南カリフォルニア大学ほかで教鞭をとり城西大学教授、学長、理事長を歴任。詩集『春の終りに』(八坂書房1976)『音波』(思潮社2020)、『ネブラスカ、ネブラスカ』(同2024)『八月の光へ』(同2024)、評論『フェミニズムの彼方』(講談社1991)、『物語と反物語の風景』(田畑書店1993)『モダニズムと〈戦後女性詩〉の展開』(思潮社2012)、『白石かずこの世界』(書肆山田2021)『吉原幸子 秘密の文学』(思潮社2023)『崖の上の家』(明石書店2024)『宛先不明』(同2025)『一軒家のフェミニズム』(同2026)ほか。









