パパイヤのある街 台湾日本語文学アンソロジー
日本と台湾の歴史を言語接触から読み解くアンソロジー
日本の製糖会社の進出により父を亡くし、貧しい家族を養うため台湾から日本へ渡って来た楊青年。しかし、やっとのことで見つけた新聞配達の仕事はあまりにも不当な条件だった。台湾での階級対立を、帝国日本と植民地台湾の権力勾配に重ねながら、労働者の連帯を描く「新聞配達夫」。内地人風の生活を夢見ながら、立身出世の勉強に励む陳有三は、台湾の役所に勤めている。内地人に対しては家畜のように卑屈な台湾人の上司、製糖会社勤務の友人、結納金と引き換えに売られていく想い人……。表題作「パパイヤのある街」ほか、日本統治期の台湾人作家による七篇の日本語文学作品を収録。
多層的な言語空間をもつ台湾で生まれた作家たちは日本の言語政策の変遷にいかに翻弄され、そのアイデンティティを形成し、自己表現へと辿り着いたのか。言語という枠組みからその過程に光を当てるアンソロジー。
編者 | 山口守 |
---|---|
発売日 | 2024年8月9日 |
ページ数 | 344 ページ |
定価 | 2,700円(+税) |
判型 | 四六判並製 |
装幀・造本 | 藤巻亮一 |
カバー写真・ イラスト |
犬吉工作室 INUKICHI BOOKS |
ISBN | 978-4-7744-0835-4 |
目次
自然にかえれ! 呉濁流
新聞配達夫 楊逵
夜明け前の恋物語 翁鬧
パパイヤのある街 龍瑛宗
牛車 呂赫若
志願兵 周金波
花咲く季節 楊千鶴
編者解説 山口守
台湾文学関係年表
【著者】
呉濁流(ご・だくりゅう、1900~76)
台湾・新竹生まれ。公学校教員、新聞記者を経て、日本植民地統治終了後は台湾文学の重鎮として活躍。主な作品として他に『アジアの孤児』、『無花果』、『台湾連翹』などがある。
楊逵(よう・き、1906~85)
台湾・台南生まれ。日本留学中にプロレタリア作家や演劇人と交流を持つ。帰国後は左翼運動に従事する一方、作家として活躍。生涯を通じて何度も思想犯として投獄された。主な作品として他に「難産」、「水牛」、「鵞鳥の嫁入り」などがある。
翁鬧(おう・どう、1910〜40)
台湾・彰化生まれ。台中師範学校卒業後、公学校教員を経て日本に渡り、三十歳で客死したとされているが、不明な点が多い。主な作品として他に「戇爺さん」、「羅漢脚」、「歌時計」などがある。
龍瑛宗(りゅう・えいそう、1911〜99)
台湾・新竹北埔生まれ。台湾商工学校を卒業後、台湾銀行勤務、「パパイヤのある街」が『改造』の懸賞小説として入選したことを機に、雑誌『文芸台湾』を中心に作家活動を行う。主な作品として他に、「宵月」、「邂逅」、「蓮霧の庭」などがある。
呂赫若(ろ・かくじゃく、1914〜50)
台湾・台中生まれ。台中師範学校卒業後、公学校教員を経て日本に渡り、東宝声楽隊員として舞台に立つ。帰国後は雑誌『台湾文学』を中心に、代表的日本語作家として活躍する。主な作品として他に「柘榴」、「風水」、『清秋』などがある。
周金波(しゅう・きんは、1920〜96)
台湾・基隆生まれ。中等・高等教育を日本で受ける。帰国後は歯科医師として働きながら作品を発表。主な作品として他に「水癌」、「『ものさし』の誕生」、「逞しき群像」などがある。
楊千鶴(よう・ちず、1921〜2011)
台湾・台北生まれ。台北女子高等学院卒業後、台湾日日新報社に記者として入社、台湾初の女性ジャーナリストとなる。主な作品として他に、自伝『人生のプリズム』、随筆「なきばば」、「嫁ぐ心」などがある。
【編者】
山口守(やまぐち・まもる)
1953年生まれ。東京都立大学大学院人文科学研究科中国文学専攻修了。専門は中国現代文学、台湾文学および華語圏文学。日本大学文理学部教授を経て、現在日本大学人文科学研究所上席研究員。日本台湾学会名誉理事長。編著書に『講座台湾文学』、訳書に白先勇『台北人』、張系国『星雲組曲』、『我的日本』などがある。