皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第50回 出版界の訃報を集める――訃報雑感

河原努(皓星社・近代出版研究所)

 

■いそがし、いそがし

なんだかずいぶん忙しい。ようやく山中智省、嵯峨景子監修『ライトノベル雑誌・少女小説雑誌目次集成』(2025)の作業が終わったと思ったら、高野光平先生のエッセイ『昭和五十年代をさがして』(3月6日発売)【図1】と、4月上旬発売の『近代出版研究』5号の編集作業が重なり、さらに新しいデータベース「じんぶつプラス」のリリースを4月に控えているからだ。それで先月も休載した。連載で取り上げる種を仕入れる時間がないんだよなあ、ということなのだが『近代出版研究』5号で「出版界訃報二〇二五」というコラムを書いたので、それを拡張して「訃報を集める」話をしてみよう。

【図1】面白くて読みやすいですよ! 表紙カットはマンガ家の中我生直佑さんにお願いしました。

■2025年の出版界訃報

昨年(2025年)、出版業界紙に訃報が掲載された方々は以下の通り。日付は命日、それに氏名と肩書である。

 

1月3日 大野隆弘(69歳、産経新聞出版元常務)
2月2日 小長井信昌(94歳、白泉社元代表取締役社長)
2月11日 奥村喜久恵(95歳、奥村印刷創業者・奥村武氏の妻、協同出版・小貫美知子社長の母)
4月1日 赤尾文夫(74歳、株式会社旺文社ファウンダー)
5月2日 菅徹夫(92歳、日本出版販売元代表取締役社長)
5月22日 南晋三(77歳、株式会社潮出版社前社長)
7月7日 山下秀樹(82歳、集英社元代表取締役会長)
8月22日 櫃田文也(87歳、学研ホールディングス元取締役)
8月30日 津吉綽(83歳、ゴルフダイジェスト社元常務)
9月14日 小川雄一(57歳、誠文堂新光社代表取締役社長)
10月2日 星野忠平(星野書店代表取締役)
11月1日 鈴木喜重(90歳、ときわ書房代表取締役会長)
11月6日 田中潤(96歳、日本雑誌協会元事務局長)
11月12日 大村照雄(85歳、大村紙業前代表取締役会長)
11月22日 米川和秀(91歳、ジーピー代表取締役社長)

以上15名。

 

■むかしは『出版年鑑』に出版界の年間訃報欄があった

出版ニュース社があった頃は(2019年事業停止)、同社が出していた『出版年鑑』に出版界の年間訃報欄が存在した。これについては私が、昭和5年(1930年)から平成30年(2018年)の約90年にわたって同欄に掲載された訃報を抜き出して名前ヨミの五十音順に再排列した『「出版年鑑」掲載全訃報一覧――昭和平成期 著作家・学者・出版人7000人』(近代出版研究所、2022)にまとめた【図2】。
いま『出版年鑑』は1985年版までが国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている(2026年2月13日現在)。傾向としては作家や学者といった「著者」の訃報群に、出版関係者が混ざっており、時代が下るに従ってそれが強まる。書籍のサブタイトルを「著作家・学者・出版人」としたのはそのためだ。

【図2】品切れです。同人誌は部数が少ないので早めに買いましょう。

■一般紙と業界紙

朝日新聞・毎日新聞・読売新聞・日本経済新聞・産経新聞といった一般紙には、いろいろな分野の訃報が掲載される。その中で出版界の訃報はあくまで「ワン・オブ・ゼム(one of them)」であり、一般紙には世間に周知しなくてはいけない基準を満たさない訃報は掲載されない。
対して特定の業界(分野)の人に業界内のさまざまな情報を報じる専門紙があり、一般紙に対して業界紙と呼ばれる。ここで訃報が周知される対象は狭い“業界”であるため、報じられる訃報はその“業界”の人だけ。一般紙では当然の、例えば総理大臣の訃報でも、まず掲載されない。
出版界の業界紙には「新聞之新聞」(1924年創刊)、「文化通信」(1946年創刊)、「新文化」(1950年創刊)などがあり、前2紙は新聞などを含めたマスコミ業界の業界紙で出版も取り扱うというスタンス、「新文化」は題号下に「出版界唯一の専門紙」とあるように出版専業である。
過去にどのような出版業界紙があったかについては『近代出版研究』3号(2024)に出版史家の戸家誠さんが「出版界の業界紙について――調べた事と知っていることを少々」と題した文章を寄せており、これ以上の概観は無く、大変貴重だ。ちなみに「図書新聞」(1949年創刊)や「週刊読書人」(1958年創刊)は書籍の紹介を主とした書評紙であって、業界情報を報じないため、業界紙ではない。

 

■業界紙から昨年の訃報を集める

前述15人の訃報は、

・『新文化』
・『文化通信』
・『トーハン週報』(取次の書店向け商品情報誌)
・『出版クラブだより』(日本出版クラブの会報)
・『書協』(日本書籍出版協会の会報)

の5紙誌の昨年分から収集した。この中で『トーハン週報』は昨年3月で休刊し、その間の掲載訃報は0件だった。『出版クラブだより』も0件、『書協』には小川氏の訃報だけが載っていて、1件。
『文化通信』に掲載された訃報は小長井・赤尾・南・小川・星野・鈴木の各氏で6件。『新文化』は15件で、これは今年公表された訃報全てが掲載されていることになり、やはり「出版界唯一の専門紙」を名乗るだけはある。
これ以外に出版界の訃報が掲載されていて、一般人が読める媒体をご存知の方はご教示くだされば幸いです(※1)。

※1「一般人が読める」というのは、出版親睦団体の会報などは会員向けに作られているので普通は読めないからだ。『出版クラブだより』『書協』は会報誌ながら、国会図書館に入っていて読むことができる。

 

■減りゆく訃報

『近代出版研究』4号のコラム「出版界訃報二〇二四」で調べた一昨年の出版界訃報は16件、今年は15件だった。
では以前はどうだったのか。私が国会図書館の新聞資料室に通ってノートを取った「文化通信」の訃報をお目に掛けよう【図3】。とても15件ではきかない。

【図3】左ページ1990年(平成2年)の訃報は28件もある。

 

2000年代に入って、世間に公表される訃報の絶対量が減っている。かつて編集を担当したことがある日外アソシエーツの『現代物故者事典』も、刊を重ねる毎に収録人物数が減っていき、訃報調査に苦労させられた。
新聞の訃報記事は故人の葬儀案内が情報源と思われるため、AIに「葬儀 減少」で訊いてみたら、たちどころにいくつも理由を挙げてくれた。

・人口減少・高齢化
日本の人口減少と全体的な高齢化により、葬儀の需要が減少。
・人間関係の希薄化
職場の人間関係の変化により、会社が社員の葬儀に関与しなくなった。
地域の結びつきが弱まり、身内以外に葬儀を知らせないケースが増加。
・経済的問題
「家族葬」や「直葬」といった費用を抑えた葬儀形式の選択が増加。
葬儀にかける費用の平均額が年々減少。
簡素な葬儀を望む人が増加。
故人との最後の時間を少人数で過ごしたいという意向。
静かに故人を見送りたいというニーズの高まり。
・小規模葬儀への移行
家族葬や一日葬、直葬など、参列人数の少ない葬儀形式が主流に。
・葬儀に関する価値観の変化
葬儀は「プライベート」なものと捉える価値観が広がり、故人の死を公表しないケースも。
「葬儀にお金をかけなくてもいい」という考えが増加傾向にある。

典拠はないけど、出てきた理由は体感的に納得はできる。つまり、人口減少により葬儀全体が減っている中で、葬儀の形態も身内だけで行うかたちが増加し、さらに亡くなったことを公表しないケースもあると。それは供給される(?)訃報の絶対量も減るわね。

 

■実は追悼文も減っていません?

私がなぜ出版界の訃報を気にしているかと言えば、稲岡勝編『出版文化人物事典』(日外アソシエーツ、2013)の担当編集者として同書の増補改訂を志しており、その掲載基準が物故者だからだ。生きている人の情報を扱うことが年を追うごとに難しくなり、個人情報保護法の制定以降は紳士録の類は激減している。死者には法律が適用されないのだから、評価の定まった故人のみを対象とするのが書籍を出版する際には現実的だ。
訃報もそうだが、これもめっきり見なくなったと思うのは「追悼文」である。故人をよく知る人がその業績や人柄を記していて、人物の経歴を記述する際のとてもよい資料となる。2000年代までの『出版クラブだより』は毎号のように追悼文が掲載され、本当にありがたかった【図4】。

【図4】『出版クラブだより』1971年2月10日号掲載の良書普及会創業者・河中俊四郎への追悼文


紙媒体が減り情報源がインターネットだけになっていくと、掲載期間やサービスが終了した情報には手が届かなくなる。紙という参照しやすい形のみの平成以前と、「いま」の情報しか残らないネット社会のそれ以後とでは、良きにつけ悪しきにつけ、細かな情報の残りやすさが格段に違っていくのだろう。よく言われることではあるが、そんな結論に達してしまった。
なお、4月刊行予定の『近代出版研究』5号に紀田順一郎先生の追悼文を書いた。紀田先生とは直接謦咳に接する機会を得られず、お人柄や功績を伝える文章ではないが、最晩年にお仕事をさせていただいた編集者の一人として、手元に残されたメールのやり取りを公表する義務を感じたからである。
みなさんもどんどん追悼文を書いて、紙媒体で残してください!(←変な締め方……)

 

■附・出版平和堂の「顕彰者名簿」

印刷媒体ではないが、インターネットで見られる出版人の訃報に「出版平和堂」の「顕彰者名簿」がある。
「出版平和堂」は 教科書協会/自然科学書協会/出版梓会/出版企業年金基金/出版健康保険組合/全国教科書供給協会/日本雑誌協会/日本出版取次協会/日本書籍出版協会/日本書店商業組合連合会/文化産業信用組合/日本出版クラブの出版関連12維持団体等によって維持・運営される、出版界の物故功労者を祀った「出版文化の殿堂」。
「出版平和堂」の「顕彰者名簿」には物故功労者の「会社役職」「団体役職」「生年/没年」が掲載されており、経歴は無いが、無料で使える「簡易出版人事典」ともいえる。毎年数名ずつ顕彰者が追加されており、事実上、業界が選んだ重要出版人のリストいう意味合いでも重要である。

 


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