第11回 小さなお店の歴史を調べる――ある模型店を事例とした生活史
小林昌樹(図書館情報学研究者)
はじめに
ヒストリーというものは政治、軍事など、社会的に重大なことやメインカルチャー、ハイカルチャーを中心に書かれる。一方でサブカルチャーや些事にわたる生活史は書かれづらいし、書きづらい。業界史でも、経営規模の大きい会社は社史が出る。規模が小さくなればなるほど書かれなくなる。これも当たり前ではあろう。けれど、私が普段、物を買ったり、ちょっと立ち寄ったりする場所は、それこそ個々の小さな商店であった。では、自分が子ども時代に通ったあの店、その店の歴史を知りたいと思ったら、何をどのように調べたら、調べたことになるだろうか?
■模型店ピンバイス(1977〜2023)を事例として
自分はたまたま試験に受かったので日本国、というか立法府に奉職したが、親はブルーカラーで出発し、途中「脱サラ」して小商店主で一生を終えた。そこで、ここでは私の親がやっていた模型店「ピンバイス」【図11-1】を題材に、どんな資料やデータベース(DB)を調べれば、小さな商店の沿革や活動内容がわかるか説明する。ファミリーヒストリーなどで、商業登記などしていない屋号だけの小売店、小企業を調べなければならないこともあるだろう。そういった場合にこんな方法もあると読者に知ってもらえれば幸いだ。
【図11-1】模型店ピンバイス(2004年)
市井の人を調べるのに近い――ファミリーヒストリー
拙著『調べる技術』第4講で、人物調査をする場合には、a.(超)有名人、b.限定的有名人、c.無名人の三つに分けて探索すると良いと説いた【表11-1】。その際、無名人について手段は「なくはない」としつつ、説明しなかった。というのも使える公刊資料が少ないのと、ニーズがあまりなかったからである。ただし、NHKの番組『ファミリーヒストリー』(2008年〜継続中)の影響で、cの無名人(=ふつうの人、市井人)を調べるニーズが喚起されつつあるので、保護される「個人情報」ではない、公知の情報でどこまで調べられるかということが「調べる技術」に重要になってきた。今回、小商店の調べ方も無名人の調べ方に似ている部分がある。
【表11-1】人物調査の三類型(『調べる技術』より)
資料をとりあえず2つ、公刊物、非公刊物に分けると、公刊物には図書、雑誌、新聞などが該当し、非公刊には公文書、私文書が入るだろう。公文書の一種、戸籍は1980年頃まで誰でも見られ、人物事典や著作権調査に使われていたが、以後、直系の親族しか請求できないようになった。私文書には、日記、手紙、手記、写真アルバムなどがあるが、これらは一部、自費出版などで公刊される場合がある。
どんな資料に情報が載るか――出そうにない事柄を調べる場合の心がまえ
以下、ありふれたものから特殊なものの順で説明する。ただ、その前にちょっと言っておくと、こういった、いかにも出そうにないような事柄を調べる場合にどのように自分が探索戦略をイメージしているかというと、〈最初にどんな媒体ならそれが載りそうかを考えて、それが検索できないか後から検討している〉のである。逆に言うと、それを探すのになにができそうかを先に考えるのではなく、それが活動していた頃、どんな媒体になら記録が残るだろう? とまずは考える。一通り考えた後で、それは現在引けるか引けないかを考えるのだ。同時代資料想定法と現在引けるか否かはNDLデジタルコレクション(デジコレ)など刻々と変わるので別に考えたほうがよい。資料想定には自分の古本趣味が役に立っているが、読者も古本市など(できれば古書会館の週末古書展)に通えば身につけることができるかもしれない。
この手法はどんな事柄でも普遍的に有効で、それが活動していた時代の業界慣行、一般メディアの状況といったことを考えながら調べものをしていくと、意外な資料がツールとして使えそうと判ったりする。例えば明治初め、まだ国立図書館がなかった時代が8年ほどあった(国会図書館――以下、NDL――に収蔵の帝国図書館本の始まりが明治8年)が、そういった明治初年代の本についての情報を調べるのに新聞広告を使う、といった発想は可能で、実際そのものズバリのDBも開発されたことがある。
模型店ピンバイスの場合、親の経営であったので、昭和後期から現在にかけてどのような媒体に情報が出たか私も経験的に知っている。それを現在段階でどう検索できるかを考えているので、現在できない情報源についても予め判るという次第。
■エフェメラ資料
ここで紹介する公刊資料はありふれたものなのだが、ありふれすぎて保存されない種類の資料が多い。こういった秘密でもなんでもない資料だが、保存されないものを専門的には「エフェメラ」という。ここで紹介する電話帳はその代表である。
エフェメラは郷土資料としてなら各地の県立図書館などに保存される。ただ各県をまたいで保存するとなると、やはり東京にある国会図書館ということになる。もともとエフェメラはタイトルなど書誌事項が明確でないこともあり(「電話帳」の正式名称は「電話番号簿」だったりも)参考までに資料名の末尾に国会図書館の請求記号を付けておいた(書誌事項末尾< >内)。
またここでは趣味の雑誌も紹介する。昭和平成期に出版界で「雑誌の時代」と言われたように、雑誌は非常に重要な資料なのだが、学術雑誌以外をまともに保存する機関が国立図書館ぐらいしかない(あとは大宅壮一文庫)。ちなみに書誌事項内で「[1967]-」といった角ガッコ内にくくる表記法は推定を示す図書館業界の記述法である。創刊号が欠号なので巻号から単純に逆算すると、おそらく1967年創刊だろうと推定したという意味。
■電話帳――「街の◯◯屋さん」を調べるツール
現在は非常に薄い簿冊になって見る影もないが、昭和後期には厚さが5cm近くもあり、同時代人にはあまりに当たり前すぎて(ただで現地の分が契約戸に配布された)、これが重要なレファレンス・ツールであると意識されていなかった。大きく「タウンページ」(職業別電話帳)【図11-2】と「ハローページ」(五十音順電話帳)のシリーズに分かれる。ここで使うのはタウンページのほう。
【図11-2】タウンページ(外見)
東京圏なら永田町の国会図書館で閲覧するのが各県分もあり、簡便ではある。例えば次のようなものがある。
・『東京23区電話帳 : 職業別 : 昭和52年12月1日現在』(東京電気通信局, 1978)<Y69-東京-123>
巻頭にある索引でp.721-の「模型(標本を含む)」の項目を探し出す。問屋、小売店などとりまぜて数百店舗が店名の五十音順で並んでいる(「五十音順」とあるが、本当に読みの五十音順ではなく、頭文字の五十音順であることは拙著『調べる技術』第8講を参照)。ただし模型店ピンバイスは掲示されていない。おそらく掲載が有料だからだろう。
・『東京都23区 : 1994年11月10日現在 (タウンページ) 』日本電信電話首都圏電話帳事業推進部, 1995 <Y69-94W-99073>
やはり巻頭の索引から当該ページを見つけるが、時代が下ったからか模型店だけ分立している。またピンバイスがこの頃にはようやく載っている【図11-3】。店長が専門雑誌への広告効果のほうを優先させていたのを憶えている。
【図11-3】タウンページ(中身)
これらから判るのは、電話帳のうち「職業別」は模型店全体の趨勢を知ったり、専門雑誌に広告のない「街の模型店」を探す場合に、あらかじめ場所と大体の年代が判っていれば有効ということだ。ただし開店してすぐ掲載を願い出る店ばかりでもないので(当店がそう)、創業年の確定に使うにはやや難がある。逆に廃業年の確定にはかなりの信頼度で使えるだろう。
商号/屋号でなく店主の個人名があらかじめ判っていれば、正確な所在地を知るのにも電話帳は使える。その場合はハローページを引くことになる。ハローページを横断的に検索するものとしていろいろ物議をかもしているがネットに「ネットの電話帳」というDBもある。いまこれを「ピンバイス」で検索すると2000年のデータが出る。
■住宅地図――日本独自のタイムマシン(ただし行けるのは戦後だけ)
昭和20年代末から作られるようになったのが、現在「住宅地図」と言われる冊子体地図帳である【図11-4】。実物は見開きでA2にもなる割と巨大な冊子である。
【図11-4】ゼンリンの住宅地図
これは表札や看板を実地に調査して戸別の住人や店舗が判るようになっている大縮尺地図で、日本固有の「表札」を情報源にしているため、表札/看板の有無に名前情報も連動する。本人が死亡していても表札があれば、その名前が表示されつづけてしまう場合がある。アパートについても地図帳の巻末に「別記」で名前一覧があることがある。戦前、住宅地図はなく、代替として使える資料に「火災保険(特殊)地図」があるが現在、発掘・復刻が始まった段階である。
小商店の正確な所在地は電話帳などで判明するだろうから、それを手がかりに住宅地図帳を国会図書館などで検索して、閲覧、複写するとよいだろう。地図帳は著作権法の制限で見開き全部をコピーできないが、NDLは著作権者のゼンリンと契約を結んでいるので例外的に見開き全部を複写してもらえる。
・『江東区 1990 (ゼンリンの住宅地図. 東京都 ; 8)』ゼンリン, 1989.12 <YG111-13-108-A1>
【図11-5】住宅地図に記載された模型店ピンバイス(1989年頃)。図を横断する道路の中央南側にあります
専門雑誌で広告や記事を見つける
プラモデル(模型)といった趣味のジャンルには、製造業・流通業向けの業界紙誌と、エンドユーザ向けの専門誌(趣味雑誌)の2系統が成立するが、小売店は『東京玩具商報』『日本模型新聞』といった業界紙誌にほぼ出ない。そこで次のような専門誌の(小売店単体や小売店チェーンによる)広告を見つけるか【図11-6】、紹介記事を探すことになる。
【図11-6】模型雑誌に載ったピンバイスの広告(『モデルアート』1990年11月号)
・『モデルアート = Model art : modeling magazine』モデルアート社, [1966]- <Z17-685> ※ピンバイスが今年まで広告を出していた唯一の雑誌。
・『ホビージャパン = Hobby Japan』ホビージャパン, [1969]- <Z11-518> ※1970-90年代にはピンバイスも広告を出していた。1982年あたりから広告索引が巻末にある。
・『Model graphix = 月刊モデルグラフィックス』大日本絵画, 1984- <Z11-1427> ※1980〜2000年代にはピンバイスも広告を出していた。1991年9月号に紹介記事がある。この雑誌には宮崎駿のイラストエッセイ「宮崎駿の雑想ノート」が載っていた。
・『レプリカ』タックエディション, 1985-1992? ※この雑誌にも広告を出していた。ただしNDL未所蔵。
こういった趣味雑誌、特に戦後のものはタイトルにカタカナ語や欧文を使うので、古書販売サイト「日本の古本屋」やNDLオンラインを検索するような場合には両方で検索する必要がある。
そもそも小売店が記事になることは、タウン誌など限られた場合を除いて少ない(タウン誌については『全国タウン誌総覧』で調べる)。模型小売店の場合、特に次の『タミヤニュース』の連載「HOBBY SHOP」は小売店紹介のシリーズ記事で重要【図11-7】。ピンバイスは1982年9月号で紹介されている。
【図11-7】『タミヤニュース』の連載「HOBBY SHOP」
・『Tamiya news』タミヤ・タミヤニュース編集室, [1967]- <Z17-890> ※大手製造業によるエンドユーザー向けPR誌。索引が5回出ているが、それは通信販売サイト駿河屋のカタログではじめて判ることで、NDLオンラインの書誌記述からは不明である。
NDLデジタルコレクションで雑誌広告・記事を引く
これまでは上記のように、雑誌を調べ、さらにそれを通覧ないし索引で調べて記事、広告を見つけるといった段取りが必須だったが、2022年12月以降、状況がガラリと変わった。
というのもNDLデジコレにフルテキスト検索が付いた(正確には換装されて「使える」ものになった)のである。図書・雑誌・新聞の三大資料のうち、一番デジタル化・フルテキスト化が進んでいるのは図書(≒単行本)で、新聞が一番遅れているが、雑誌もそこそこ遅れている。そのため現状では『モデルアート』も『ホビージャパン』も『モデルグラフィックス』も未デジ・未フルテキ状態だが、それでもなお意外な資料が引っかかるかもと、デジコレを検索してみる必要はあるだろう。
検索語「ピンバイス」だとノイズが多くなるので(ピンバイスとは普通名詞で、ピンのような細いドリルを付ける台座のこと)、こういった特定性の低い屋号の場合、関連する別の固有名で検索するという技法がある。商業登記を官報で検索する場合などは経営者の個人名を使うが、広告検索だとそうはいかないので、人名の代わりに店の電話番号や所在地を検索語とする。昭和後期から平成にかけて電話番号は広告に必須のものだったので、広告記事だけをヒットさせられる【図11-8】。もちろん今回の場合、お店の存続期間があらかじめ判っているので、年代で絞り込んでノイズを排除してもよいだろう。
【図11-8】デジコレを店の古い電話番号から検索した結果
この結果、『航空ファン』といったような、模型雑誌ではないが模型記事も載る雑誌に広告を出していたことがわかった。「国立国会図書館内限定」なのは版元がまだ存続しているせいだろうか。それはともかく、永田町(NDL東京本館)や精華町(NDL関西館)へ登館すれば、PC画面で閲覧し、そのプリントアウトを持ち帰ることができる。【図11-9】はそれで見つけた5周年記念の広告だが、周年記念セール等の広告は創業年が判るのでありがたい。この広告では12月17日という創業日まで判ってしまった。塗料やトレーナー、戦車など独自商品をいろいろ開発していたことも判る。
【図11-9】5周年記念の広告(『航空ファン』1983年2月号)
2ちゃんねる改め5ちゃんねるをさらう――2000年代以降の日本サブカル偶然記録集
1999年5月に開設され、2000年に有名になった巨大掲示板「2ちゃんねる」にも模型関係のスレッドがあり、そこで小売店の情報が拾えることがある、というか、あった。以前、2018年に検索した際には、過去スレッドについても保存されており、Google検索や、未来検索ブラジルのFind.2chで過去ログをスレッドタイトルだけでなく、本文まで(有料だが)検索できたものだったが、2023年12月現在はそうではないようだ。それでもかころぐβというサイトで比較的最近のデータが(本文からも)検索できる。
以前は次のようなデータが検索できたが、現在は検索できなくなっている。後継スレッド「都内の模型店について語ろう【19軒目】」は検索及び表示される。
○都内の模型店について語ろう【15軒目】(http://awabi.5ch.net/test/read.cgi/mokei/1377417780/)
453 :HG名無しさん:2013/12/13(金) 13:43:33.60 ID:SXE+7cbu
>2013年12月13日 金曜日:今日は午後6時で早じまい。ゴメン。
イレギュラーな休業を見掛けると、おやっさんの体調が気になる。
ピンバイスがんばれ!」
454 :HG名無しさん:2013/12/14(土) 08:12:34.38 ID:oJKvfuID
最近、バジル君さんはどうした?
過去ログがきちんと引けるようになれば、2000年代以降の小売店閉店時期を確定するのに使うことができるはずである。もちろん、うまく関連スレッドを見つけられればであるが。ちなみに引用文中の「バジル君」はピンバイスの看板猫の名前(【図11-11】に肖像あり)。
ウェイバックマシン(インターネットアーカイブ)
各国でウェブアーカイブを持っているようだが、世界中の民間のものも等しく保存するという点で米国非営利団体インターネット・アーカイブによる「ウェイバックマシン(Wayback Machine)」より有用なものはないのではなかろうか。日本の国会図書館が行っている「WARP」は省庁や自治体のサイトだけを対象にしているので、マジメな事柄、大きな事柄のヒストリーにしか役立たない。日本ではこのシステム「ウェイバックマシン」は「インターネットアーカイブ」と呼ばれることが多い。
ピンバイスの2007年以降のサイトへはウェイバックマシン自体に2017年についた検索機能で行きつける【図11-10】。
【図11-10】「ピンバイス」で検索すると保存されたデータへ行ける
この店に限らず、ホームページを過去に持っていた店であれば、このサイトにデータが部分的に保存されているかもしれない。ただし、上記の検索が効くのは一部であるらしく、出ない場合には何よりもまず、URLを知る必要がある。つまり、ウェイバックマシンから過去データを発掘するにはURLを知ることが先決だが、それは5ちゃんねるやブログ、掲示板等の過去のエントリを検索して探りだしておく。
ピンバイスの旧サイトは「http://www1.odn.ne.jp:80/pinvise/」である【図11-11】。次のURLを開くと、ウェイバックマシンで保存されているデータの一覧が出る。
https://web.archive.org/web/*/http://www1.odn.ne.jp:80/pinvise/*
【図11-11】模型店ピンバイスの旧サイト(2007年、ウェイバックマシンに保存分)
■過去のURLを知る方法①――NDL旧Dnaviを使う
会社、組織や商店の旧サイトURLを知ることは、ウェイバックマシンの古いデータを発掘するには必須だが、これを探すこと自体、結構な苦労となる。今回の模型店HP検索には役立たないが、NDLがWARPとは全然別に、民間も含めレファレンスに役立つサイトのURLを2002年から2014年まで集めていた(略称「Dnavi」ディーナビ)ので、これが使えることがある。
データは現在でもNDLデジコレのここに保存されているので、ダウンロードしてサイトごとに付与されたNDC(日本十進分類法)でソートしなおせばそこそこ使い物になる。
例えば、出版社のサイト一覧を見つけ、それをウェイバックマシンで表示し、さらに探している出版社のURLをクリックすると、ウェイバックマシンに保存されていれば古い2000年代のHPを表示させることができる(はずだ)。【表11-2】はNDCで「024 図書の販売」の部分である。この表の先頭にある、2014年段階で公開停止だった「出版業界イエローページ」はウェイバックマシンに保存されており【図11-12】、そこから各種出版社の古いHPのURLが判る。
【表11-2】
【図11-12】出版業界イエローページ(ウェイバックマシンに保存分)
■過去のURLを知る方法②――Yahoo! Japanの旧カテゴリを使う
ディレクトリ型検索エンジンとして日本で一世を風靡したヤフー・ジャパンだが、このカテゴリがウェイバックマシンに保存されていた【図11-13】。
【図11-13】ヤフー・ジャパン(1996年、ウェイバックマシンに保存分)
有名どころのサイトしか直接には判らないだろうが、そこそこ有名だったサイトのURLが判る。直接クリックするのではなく、右クリック「リンクのアドレスをコピー」で過去URLを入手して、再度、ウェイバックマシンで検索し直すと保存分が出ることがある。いま見たところ、「ホーム:コンピュータとインターネット:インターネット:WWW:ホーム・ページの検索:ホーム・ページのリンク集」のところから出発すると良さげだ。
過去URLを知るにはとりあえず、ヤフー・ジャパンなど大手のサイトURLをウェイバックマシンで検索してみる、という手法も有効そうだ。
調べ方まとめ
以上、今年閉業するプラモデルの小売店(模型店)を題材に、小さな商店、そのスジでは、ちょっと有名だった小売店をどう調べるかの事例を示した。実際に5年ほど前、これらの方法で見つけた材料から『ピンバイス40年史』なる同人誌を私が作ったのだが、読者におかれては別にプラモ趣味の人ばかりでもないだろうから、自分のそれぞれの趣味や体験、思い出に引きつけて、名もなきお店の過去を召喚してほしい。
例えば同じ模型店でも鉄道模型なら趣味の雑誌(専門誌)や業界紙誌は上記と異なってくる。一方で電話帳、住宅地図といったツールは同じような使い方でいいだろう。これは模型に限らず、駄菓子屋などでも使えるツールではなかろうか。理論上は八百屋でも手芸店でも同じようなことはできるはず。
どの業界にどんな専門誌・業界紙誌があるかは、別途、個別に調べる必要がある。『雑誌新聞総かたろぐ』(メディア・リサーチ・センター, 1978-2019)が網羅的かつ探しやすいツールだろう。
概ね戦後の商店であれば、最初にデジタルコレクションを屋号、所在地、電話番号などで検索してみる必要はあるだろう。その際、キーワードになるのは屋号や店主の人名だけでなく、所在地や電話番号も使えることは気に留めておくとよいだろう。
さいごに
実は他にもいくつか別系統の資料がある。雑誌『NEKO』2002年12月号で【図11-8】のネコが取材されて記事が載った。ただしこの雑誌はNDLに所蔵されているのにこの号が欠号になっている。『東都よみうり』1365号(2009.9.4)の「江東区版」面にもネコの記事があるが、これも欠号。また江東ケーブルテレビに出演したこともある。要するにNDLに欠号だったり、テレビ番組であると資料として後から収集するのは極めて困難ということだ。またネコという意外な側面から資料が作られた例でもある。
日本のインターネット草創期、NDLが米国議会図書館あたりをまねてネットの一括収集をしようとしたことがある。財務の国会担当が「2ちゃんねるとか、どうしても収集する意義が解らない」ということでやらなかったと聞いたが、おそらく意義などというものは同時代人にはそもそも解らないものなのだ。戦前、帝国図書館の人々がある種の資料を、同時代に価値判断をしないでダークアーカイブとして保存していた。そういった知恵が文化には必要なのだろう。
■追伸
父の逝去に伴いピンバイスは今年の末に閉店します。そこで閉店セールを行います。予約制ですが、まだ少し枠がありますので、プラモデル(スケールモデルの専門店です。ガンプラはありません!)がお好きな方は次のサイト「ピンバイス2023/12/29‐30 閉店セール参加予約」から申し込んでください。
小林昌樹(図書館情報学研究者)
1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。2021年退官し慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。2022年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。同年に刊行した『調べる技術』が好評。専門は図書館史、近代出版史、読書史。詳しくはリサーチマップを参照のこと。
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