第6回 洋書はCiNii。それって常識?――出たはずの本を見つける
小林昌樹(図書館情報学研究者)
■洋書はCiNii。それって常識?
ちょっと前だったか、ツイッターで、洋書をNDLオンラインで探したが無い、とか、それならCiNiiブックスを引けば、などというやり取りを見た。
戦前の帝国図書館は洋書も広い分野を集めていたが、戦後の国会図書館(NDL)で洋書はあまりない(国会付属として法律の洋書はかなりあるが)。一方でネットが1990年代に普及するまで洋書を買って持っているというのは特権的なことで、大きな大学の図書館は海外の一線的研究をフォローするために一生懸命洋書を買っていた。だからもともと大学図書館の総合目録だったCiNii ブックスで洋書が見つかるのは、ある種、当たり前なわけである。
しかし、この「当たり前」どこにも書いてないようなのだ。
洋書を見つけるなら、最初にCiNii ブックスを引き、山手線沿線私立大学図書館コンソーシアム 横断検索【図6-1】を引き、ダメ元でNDL系を引き、「そんな本ホントにあるんかいな」とWorldCatで書誌事項を確かめる、といった具合が本探しの当たり前。
和書なら最初にNDLオンラインを引き、出なければサーチへ流れ、それでも出なければ日本の古本屋に当たり、まるで出なければ「まさか国外にはあるまいよね」とWorldCatを引くのが本探しの当たり前。
【図6-1】人文リンク集の蔵書目録の項
■お手軽作業表(資料形態別)
「見たことも聞いたこともない本」ならいざしらず(『調べる技術』第5講)、著者やタイトル、出版社などに手がかりがある本ならば、とりあえず、和書か洋書など資料種別に従い、【表6-1】掲載の順番でOPAC(蔵書目録データベース)を検索するとよいだろう。
【表6-1】本さがしでツールを使う順番
引く順番は、データ量の多寡を基本としたが、ユーザーインターフェイスの良さ(例えばNDLサーチで洋書を引く場合、和書がノイズになる)も加味してある。
どれかに引っかかれば、所蔵図書館がどこか明確に分かるので、あとはそこで閲覧できるかどうかを検討することになる。ついでに正確な書誌データをゲットできるわけで、そのデータを元に、Amazonや、古書販売サイト日本の古本屋で検索し、在庫があればお金を出して買うこともできるだろう。
また、和書でも洋書でも最後の仕上げに、Googleブックスを書誌データで検索すること。冊子体の蔵書目録がこれで引っかかり、所蔵先が分かることがある。もちろん、フツーにググってみることは言うまでもない(ネットにさらしてあるどこかの蔵書リストが引っかかることがある)。
おわり、ではちょっとさみしいので以下に補足の説明をしておく。
■「館種」から解きほぐす
拙著『調べる技術』第3項で説明した人文リンク集「蔵書目録」の項【図6-1】には個別具体的な機関のOPACが何十サイトも並んでいるが、機関、主に図書館の「館種」ごとに生じる、次のような所蔵傾向の違いを考えて選び、【表6-1】を作ってみた。例えば、洋書なら国立図書館や公共図書館には少ないので、大学図書館を探すことになる。
a. 国立図書館(日本ではNDL)には建前上、国内刊行物と「Books on Japan」(日本に関する洋書)は全て集まるはずである。
b. 大学図書館は研究用と教育用の和洋図書、雑誌を集めてきた。一流大学では特に洋書に力を入れてきたはず。
c. 公共図書館で洋書に力を入れてきた館はないはずだが、広域自治体立(都道府県立)図書館は、堅い本や郷土資料の長期保存をしてきたはずである。基礎自治体立(市町村立)のうち、指定都市立は広域自治体立に伍する活動をしてきたはず。
d. 技術文献や専門文献は専門図書館(行政府や企業の図書室)にあるはず。
たとえば、洋書一般を探す場合、「NDLオンラインは引く必要はほぼなく、NDLサーチも、その都道府県立図書館の総合目録データ要素は引く必要がない」ということになる。
■さらに制度から漏れる理由を個別に考えてフォロー
「はず」を連呼するのは、制度と実態は当然ズレるからだ。たとえば法定納本でNDLに全ての和図書、雑誌、新聞が集まるはずだが、意外とないことがある(これを「未収本」「未納本」「欠本」「欠号」などと呼ぶ)。その場合どうするか? 探しているアイテムごとに、なぜ漏れるのかを推理して探す場所を考えるのだ。美麗で高価な限定本で未収本であれば、文学館や日本の古本屋を探さねばならないし、ググったり、Googleブックスで所蔵者を探して見せてもらうという奥の手もある。雑本、娯楽雑誌、エロ本でNDLに無ければ、日本の古本屋やヤフオク・メルカリ頼みになってしまう。
【表1】で、和書→NDLサーチ、洋書→CiNiiブックス、と一対一でなく、あくまで「順番」なのは、どのDBもきっちり建前通りの中身でないし、「(出るはずものもので)出ない場合に次の手を考える(知っている)」のがベテランのレファレンサーだからである。
■主要な蔵書目録の解説
人文リンク集で、「蔵書目録」に挙げられているリンクから、大枠で意味のあるものだけを取り上げて、特に成立の由来に注目し、書誌データ情報源を説明すると次のようになる。
○総合目録・国立図書館目録
・CiNii ブックス 国内の大学図書館1,300館が参加。前身WebCatの時代は洋書を探す場合、第一に使った。NDLサーチにも書誌データを出しているので、1回しか引きたくない場合はNDLサーチを引く。
・NDLオンライン NDLの来館閲覧用システムだが、図書を現実に分類、件名から系統的に検索できるのはNDLサーチでなくこちら。ただし、書誌データはNDLサーチにもあるので、既知文献の検索だけなら、NDLサーチで代替できる。
・NDLサーチ 47都道府県立図書館の総合目録が出発点。他にNDLオンラインのデータ、NDLリサーチ・ナビ内の調べ方案内、レファレンス協同DBの回答文などがてんこ盛り。系統的検索に不向きだが、既知文献や固有名詞での検索には向く。なるべく「簡易検索」欄を使う。
・WorldCat 各国国立図書館など、世界71,000館が参加。日本からはNDLと早稲田大学など。北米大学の日本研究資料(マンガ雑誌もある!)がヒットすることも。英語・ドイツ語・フランス語など、洋書ならまずここ。
・カーリルローカル カーリルの地域資料(郷土史、行政資料)版。カーリルは公共図書館の横断検索のようなもの。
・ディープ・ライブラリー 国内の専門図書館多数館が参加。参加館リストはこれ? 余談だが、行政府の図書室は戦後日本ではNDLの「支部図書館」といい、冊子目録時代は総合目録も公開されていたが、現在は一般に公開されていない。
・山手線沿線私立大学図書館コンソーシアム 横断検索 青山学院大学など、都心部の有力9大学の横断検索。CiNii参加館でも特別コレクションなど、諸事情でこちらしか出ない書誌データがある。
・美術図書館横断検索 一般人からすると「本」のように見えてしまうのに、実は普通の本ではないものに展覧会目録(図録)がある。展覧会開催中にのみ販売され、NDLに無いものも多いのでここに横断検索サイトを挙げておく。人文リンク集の「美術」の項にある。
○単館目録
事情で総合目録・横断検索に参加していないが、重要な図書館の目録。あるいは文学館など、図書館でない機関の図書目録。
・早稲田大学学術情報システム WINE 図書はCiNii未収録(WorldCat収録)
・慶應義塾大学 KOSMOS 図書はCiNii未収録
・日本近代文学館 > 図書・雑誌検索
■検索事例
○『日本地図共販史』(同社、1996)
地図の出版流通史を知りたいと思い、そういえば「日本地図共販」って地図の取次会社があったな、と思い「日本地図共販 歴史」でGoogleブックスを検索すると、『日本出版関係書目』が引っかかり、次の文献があるとわかった。読みたい。
・日本地図共販史:The 50th anniversary / 50周年推進委員会編. 東京:日本地図共販, 1996.7. 51p
【図6-1】NDLサーチの結果
→NDLサーチを引いたところ、長崎県立長崎図書館にのみ1冊あることがわかった【図1】。しかし、ちと遠い。CiNiiブックスを引いたがなし。山手線コンソーシアムにもなし。慶大、早大にもなし。カーリルローカルで「東京都」を選択して引いたら、なんと千代田区立図書館で1件ヒット! よく考えたら出版業は東京都千代田区の地場産業だった。
念のためタイトルで「“ ”」付きでググると、論文でこの本を引用している人がいる。その人は持っているかもしれない。
○『ボン書店月報』
内堀弘『ボン書店の幻:モダニズム出版社の光と影』 (ちくま文庫、2008)は名著の呼び声高い。先端的な詩集専門出版社だったボン書店のPR月報を見たい。
→NDLサーチで「ボン書店 月報」を検索すると、神奈川近代文学館の所蔵情報が出る。山手線コンソーシアムには出ず。ディープライブラリーを引くと1件ヒットするが、データ提供元でブラウザの検索を「ボン」でかけて見ると「フルボン赤春堂古本目ろく」がノイズになったものと判明。さすがにカーリルローカル東京都にはなし。「日本の古本屋」にもなし。念のため日本近代文学館の図書・雑誌検索を見ると、4号だけ所蔵していた。
【図6-2】日本近代文学館>図書・雑誌検索の結果
○『全国出版業者調』(1935)
内務省警保局図書課が1935年に『全国主要新聞紙雑誌調』をまとめた際に、一緒に『全国出版業者調』というものを出したらしい。どこにあるか?
【図6-3】山手線コンソーシアムの結果
→NDLサーチなし、ディープライブラリー、カーリルローカル東京都なし。山手線コンソーシアムを引くと明治大学にあることがわかった。ググると一人、自分の論文で使っている人がいるが、明大のものを使ったものか?
■注記
○総合目録と横断検索
ここでは一応、「総合目録」と「横断検索」を呼び分けておいた。総合目録は書誌データを集中管理しているのに対し、横断検索は、検索の度に元サイトまで検索をしにいくので時間が多少かかったり、元サイトが落ちていれば、そのサイトの結果は出ない。
○本の、記載言語による呼び方
「洋書」と書いたが、これは主にラテン文字(アルファベット)で本文が表記されている西洋書籍のこと。対して日本語本文の場合には「和書」という。図書館界で漢籍は「和漢書」と和書と一緒に扱われていた。中国語、朝鮮語の本は漢書と一緒に扱われたり、独立して「中朝」と扱われたりしたが、ここでは和書と洋書の話をする。また、主に図書(=書籍)の話に限定して、雑誌や新聞の所蔵などは別講としたい。古典籍(江戸期以前の書籍)も別の話になる。
○「出たはずの本を見つける」という表題について
「出たはずの本」とは図書館学でいう「既知文献」のことである。著者名かタイトルか出版社か出版年か、あるいはそれら全部が不明だが出たという事実か、なんらかの手がかりがある本のこと。逆に「見たことも聞いたこともない本」とは「未知文献」のこと。未知文献を探す手段は、図書館学で主題標目(件名or分類)ということになっており、拙著『調べる技術』第5講(件名)およびこの連載「大検索時代のレファレンス・チップス」第3回(分類)で説明した。
○愚痴
今回、改めて各OPACサイトのaboutの項目を読んでみたが、要するにそこで何がどれほど見つかるのか、利用者向けの情報がほとんど書いていないことに気づいた。なんというか、知のナントカが……といった決意表明文になってしまっている。レファレンス・ツールについての『暮しの手帖』(商品比較テストの記事が大きな売りだった)が必要だと思う。
小林昌樹(図書館情報学研究者)
1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。2021年退官し慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。2022年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。同年に刊行した『調べる技術』が好評。専門は図書館史、近代出版史、読書史。詳しくはリサーチマップを参照のこと。
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