皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第5回 ネット上で確からしい人物情報を探すワザ 現代人編

小林昌樹(図書館情報学研究者)

■はじめに

拙著『調べる技術』第4講「ネット上で確からしい人物情報を拾うワザ」では、人物情報を探す際には三つの類型ごとに探すと効率的なこと、三類型のうち「半有名人」、それも本を書いたことのある人を探すのに、国会図書館(NDL)の名称典拠データベース(DB)を使うとよいことを書いた(【表5-1】)。

 

【表5-1】

NDLの名称典拠(=Web NDL Authorities/国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス。以下、NDL典拠)は、個人名が99万人分登録されている(2023年5月1日現在)。建前上、日本で本を書いた人は全員が登録されるから、こんなに多い。やはり執筆者情報を中心にデータを採録した人物DB「WhoPlus」も82万人分だという。WhoPlusは契約DBなので国会図書館の閲覧部門に行っても引けないが(なぜか閲覧部門が契約していない)、NDL典拠が、姓名の読み、生没年、一部肩書きと参照文献ぐらいで、本当に基礎的な要素しかないのに比べ(本来、著者を同定するためなのでそれで必要十分)、WhoPlusは、データの詳細度(生没年だけでなく月日もある)や信頼度、文献への参照などと併せ、日本で最大の人物DBと言っていいだろう。
ただ、私の関心から、「これで判る人って歴史上の人物とか戦前の普通人とか、いずれにせよ現役の人たちというより、大過去や少し前の人たちなんだよなぁ」と思いつつDBを紹介していた。逆に言うと、現役の「半有名人」たちをどうやって調べるか、ということは手薄だった。特に現役の人、生きている人についてはプライバシーの侵害に気をつけなければいけないので。
ところが、たまたまいい資料を読んだので、現役の人物を調べるにはどうするかを書いておく。

 

■参考になるOSINTの本

この前、熊田安伸『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』(新聞通信調査会、2022)という本を読んでいたら「個人の情報を調べる」と、そのものずばりの章立てがあって驚いた。ちゃんと合法の、むしろ官報など本来のオープン・ソースを使って調べるやりかたが書いてあった。おおむね現役の、必ずしも本を書かないような役人やビジネス系の人をきちんと調べるにはどうすればよいか。まさにOSINT(オシント:オープンソースによる諜報)である。図書館でレファレンサーがやってきたこともOSINTそのものであるので、この本のことは、あわてて、「「調べる技術」の小林昌樹が選んだ「調べの本」50選」フェア」のパンフレット・リストにも挙げておいた。

【図5-1】熊田安伸『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』

■書物がらみの4 人を調べてみると、使えるDBは……

詳細は熊田著を読んでいただくとして、とりあえず熊田著で知ったDBと、私がすでに知っていたDBで、本に関して現役/それに準ずるA〜Dの4人を調べ、彼らの履歴などがどの程度出るのか試してみた。今回はその結果を分析し、最後にどのDBがどの方向で現代人を調べるのに役立ちそうか考えてみたい。
Aは図書館業界で有名な図書館流通センター(TRC)の取締役さん、Bは国立図書館で位の高いお役人、Cは私もよく行くマンガ専門古書店「まんだらけ」の創業者さん、そして最後Dは私。
結果は【表5-2】のようになったので、この表を見ながら説明する。

【表5-2】

◯表の考察

次にDBごとに結果を書くが、リンクを貼っていない項目は貼っても契約DBなので意味がないか、人文リンク集にリンクがあるものである。

a.自社HP

自社HPには略歴は出るが、誕生日は出ない。これは星占いするぐらいにしか使えないデータなので当たり前なのかもしれないが、誕生日が出るか出ないかである種の情報の精密性を測ることができる。

c.ウィキペディア

B田中は立項されているにもかかわらず、生年月日が記載されていない。C古川は誕生日まで出る。BCともに人名読みはある。Aは人物として立項されていない。Dも同様。

d.WhoPlus(日外アソシエーツ)

A谷一、C古川ともに立項され、特にAは他に出ない詳細な経歴があるのと、名前の固有の読みがわかる。ただし誕生日の記載はない。消息筋によると、人物の職業分野によって外部に出さないこともある、とのこと。

e.NDLA(NDL典拠)

B田中は自社出版物その他に結構書いているのに立項されていないのは、単行本に関与していないからである。NDL典拠は基本的に単行本に情報源を依拠しているゆえである。

f.EDINET(金融庁)>書類全文検索>役員の状況

「書類全文検索」から個人を探すことができる。そして、行き当たった会社の「役員の状況」欄に記載があれば、生年月日と略歴をゲットできる。ただし、本名で引くこと。「有価証券報告書」を選んで「役員の状況」を見る。生年月日、略歴は出るが名前の読みはないといった点に注意。

g.gBizINFO(経産省)>法人名からのみ

EDINETより収録会社数が多いのが利点。直接個人名からは検索できない。C古川は「まんだらけ」から検索しても人物情報は出ず、かろうじて財務情報(EDINETが情報源)に株主として名前が出る程度。従業員数などが厚労省「しょくばらぼ」の連携データで判明するので、人物でなく個別の中小企業の情報を得るのによいDB。

h.官報検索!(個人)

今回、いちばん意外だったのがこの戦後官報の全文検索DBだった。戦前官報はNDLが無料で、戦後官報は国立印刷局が有料でネット提供している、というのが通り相場だったので。実際に使ってみると、A谷一が経営会社の決算「公告」の一環として、B田中が中央省庁の課長クラス以上の人事異動情報として、肩書きだけだが追える。

i.異動ニュース(民間)

今回の事例はやや公務に偏っていたためか、上場の際に話題になったC古川以外は出なかった。

j.ヨミダス

記事に大量にB田中の同名異人が出るのは、俳人にこの名の人がいるからである。逆にヨミダスが俳句もフルテキスト検索できることがわかった。

k.朝日クロスサーチ

D私が2件出るのは拙著『調べる技術』の書評が載ったからである。

l.日経テレコン

今回、現代三大紙の中でさすがと思ったのが日経であった。かつて人物情報で鳴らした大新聞の伝統は、日経テレコンの「人物情報」に引き継がれているようである。

 

■現代人の情報を調べるには

上記の実験結果を見ると、次のようにまとめられそうである。

・ウィキペディアが案外使える。特に出典のあるマイナス情報はここにのみ出るようだ。

・ビジネスがらみの人物なら、EDINETを検索するのが必須。生年月日、略歴まで出る可能性がある。また日経テレコンを近くの図書館や企業図書室で引く必要もある。できれば都道府県立図書館などで日外Whoプラスも引きたい。

・公共性のあることに関わっていれば、意外と官報検索!が使える。Bの田中のように役人系ならば課長クラス以上を拝命した以降のことが断片的にわかる。

新聞DBで人物項目が当てになるのはまず日経ということになるが、当該人物の記事があるかもしれないので、他の新聞も見るべきだろう。

もちろん今回の記事も、とりあえずググった先に展開すべき一連の動作、ということになる。実際、B田中もGoogleブックスで検索するとさまざまな記事に出ていることがわかる。

 

■(おまけ)ビジネス系・役人系以外の別の柱、例えばアイドルなど

以前『図書館人物事典』(日外アソシエーツ、2017)に協力した際に友人の鈴木宏宗さんと共同で、末尾に「人物調査のための文献案内」というパスファインダーを書いたことがある。これが、端的にいって役職のない公務員の人物情報を調べるには、という中身になっていた。

今回、ほとんどのDBで結果の出なかったD小林も、実は省庁の役人をやっていたことがあるので、改めて調べるならB田中に対してD出世しなかったお役人を調べるには、という柱で人物調査をすることになる。出先は知らぬが本省なら係長級以上であれば全員、明治19年以来の『職員録』に出るはずである。それゆえNDLデジコレのフルテキスト化が進めば、D小林も、1995年に主題第二係長を拝命して以来の履歴が、直接人名で検索できるようになる(はずである)。

本講義では、ビジネス系や役人系など実務系の人物についての調べ方を説明した。一方で、スポーツ選手やアイドルなどの芸能系人物を調べるニーズもある(拙著第7講でも少しだけ言及した)。アイドル、歌手、芸人の人物情報についてはニーズが強い割に、レファレンス・ツールが限られている。学者系は現在は「researchmap」があるが、古い時代はその前身と言うべき『研究者・研究課題総覧』を使うことになる。

 

※訂正
掲載後、ご本人から連絡があり、8件以上本人であるとのお知らせがあった。当初の検索式は「田中久徳 図書館」で8件であったが、申し出に従って慎重に「田中久徳 -俳句 -俳壇 -短歌 -歌壇 -作句 -医師」と検索し直すと39件となる。うち連載と思しき「[親と子のビデオ]」「[らいぶらりー]ビデオ」の37件を同一人とするとご本人申し出の件数と一致する。一方でこの表は著作件数でなく「人物文献」数を表したいものなので、それを勘案すると「2(212)件(210件のうち本人著作37件)」というややこしい説明が正解となる。ご指摘により実はヨミダスでNOT検索できることがわかり良かったが、単行書レベルは国会図書館で著者同定をしているのに対し、記事レベルの著者コントロールはなされないので正直難しい。A、Cの人物についても同様の可能性がある。

 


小林昌樹(図書館情報学研究者)

1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。2021年退官し慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。2022年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。同年に刊行した『調べる技術』が好評。専門は図書館史、近代出版史、読書史。詳しくはリサーチマップを参照のこと。

 

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