皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第2回 デジコレの2022年末リニューアルをチェック! 官報編

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小林昌樹(図書館情報学研究者)

■デジコレ官報を一般事項で探ってみたが……

前回、国立国会図書館(NDL)のデジタル・コレクション(デジコレ)で、ファミリー・ヒストリーを探求してみて改めて思ったのは、『官報』1883(明治16)年から1952(昭和27)年にフルテキストが付いた重要性だった。

戦前の官報は、社説のない新聞紙そのものだ。今まで朝日、読売の2つしか戦前新聞データーベース(DB)が事実上なかった日本に、3つ目ができたわけである。それもただで引けるフルテキスト付きのものが。

その際に気づいたのだが、デジコレに「コレクション」という区分が設定されていて、そこから官報を選ぶと「官報種別」「記事種別」「機関」というデジコレ官報固有の絞り込み機能がおまけでついていることに気づいた【図2-1】。これが機能すれば、固有名詞から既知情報の検索でなく、普通名詞などから未知情報が検索できるかもしれないと思った。

【図2-1】「コレクション」の「官報」から入ると官報固有の絞り込み機能「官報種別」「記事種別」「機関」が出る

 

 

そこで試したのだが、うーん残念。発想はいいのだが、改良をしないと使えない段階のように私には思えた。以下、いろいろ試した経過をご報告する。

 

■発禁本リストを検索結果一覧にできないか

前回は基本、固有名詞(人名、会社名)で戦前官報をどう使うか、という探求をしてみたので、今回は普通名詞から検索ができないか、と「記事種別」という絞り込み機能を使ってみた。

DBの機能を測る場合、実際に検索してみるのがよいので、今回は予め答えの一覧がある事象で、自分の得意分野から、発禁本(国が出版を禁止した本)のリストが作れないか試みた。

 

■発禁本は明治43年まで告示された

発禁本は明治初めからあり、明治16年からの官報にもその指示があるが、議会を通した法令できちんと(?)発禁本が指定されたのは1893(明治26)年の出版法(明治26年4月14日法律第15号)からで、これが1910(明治43)年6月まで「告示」(行政庁決定を一般に公式に知らせること)されていた。次のレファ協事例が参考になる。

1910年9月1日発行の『ホトトギス』の発禁処分について、当局(内務省)の決定はどこに記載されているか(レファレンス協同DB)

出版法での発禁本をデジコレ官報で探そうというわけだが、実は答え合わせの一覧表(斎藤昌三編『現代筆禍文献大年表』粋古堂書店、1932)を予め知っているので、それの法律施行の次の月から任意の1冊を選んで、版元名「辻岡文助」でデジコレ官報を表示させてみると次のごとくである(官報 1893年05月17日、引用時全文検索をし直してそこからコピペ。適宜□を補い、見せ消ち、補記、改行を加えた)。版面の文字列とは微妙に文字化けでズレている所に注意されたい。

 

○〓〔告〕示○○

內務省告示第二十九號

〔一〕時事〔問題〕名士演說附名士意見第三□□□□□一册

□□□□□□□問題東京市日本橋區橫山町三町目二番地□辻岡文助□發行

右出版物ハ安寧秩序ヲ妨害スルモノト認ムルヲ以テ其發賣頒布ヲ禁止ス

□□□□明治二十六年五月十七日□□□□內務大臣□伯爵井上〔馨〕

 

■「記事種別」と「機関」を掛け合わせてみたが……

上記のように発禁となった図書は「内務省告示」として官報に記載され、実際に今回、NDLデジコレでフルテキスト化されたわけである。そこで「記事種別」を「告示」かつ「機関」を「内務省」で検索し、当該年を表示させてみたのだが……。ノイズが多すぎるような。

1893年5月分が10件ヒットしたなかで、内務省告示が実際に存在したのは6件だった。つまり4件に内務省告示はなかった。これを多いとみるか、少ないとみるかは難しいが、私としてはもう少し「適合率」が上がる余地があるのではないかと思う。

どうしてこうなったのかは、「記事種別」と「機関」のデータをどこから切り出してきたのかという問題と、and検索でどの範囲(例えば1ページ、1冊など)で同じ場所にあればヒットしたことにするかという問題がからんでいるのだろう。おそらく、既存の目次データから切り出す一方、ページ単位でなく冊子(このDBでは1件)単位にあればヒットさせているのだろう。

 

■官報の欄名、項目名

発想を変えて、単純に同時期の「内務省告示」が何件ヒットするか検索してみた。すると実際に存在した内務省告示が6件そのまま一覧表示される

どうやら、どの欄、どの項目名の下に求める情報があるか予めわかっていれば、その欄名・項目名で全文検索するほうが現状ではいい気がしてきた。

現状では、なんらかの形で求める事柄の欄名を先に探って、それを手がかりに引くのが良いようだ。そこで次に『調べる技術』第6講(p.89)に掲げた表を少し改良して【表2-1】として掲げておく。ここでは仮に記事種別を10種にまとめた。

【表2-1】官報の欄名、項目名(戦前をモデルに例示)

 

 

欄名、項目名は官報から転記したので、そのまま検索語として使えるはずである。また①〜⑩は官報における掲載順でもあるので、自分が開いたページがどこかで、前後へのあたりをつけられるはずだ。今回のフルテキスト化でいちばんユースフルになったのは、【表2-1】目次採録で ×がついている⑧公告(省庁や民間の)部分だろう(引き方は別途、開発するとして、当面は固有名詞で検索するといい)。

図書の発禁ならば、官報の先頭のほうにある「○告示」欄に「内務省告示第〇〇号/一××」といった書き出しで記載されるので【図2-2】、「内務省告示」で検索すれば、全文検索でそれがヒットする。

【図2-2】図書の発禁は「告示」欄に「内務省告示第〇〇号」として載る

 

 

■本文の問題に固有のフレーズで検索

また発想を変えて、発禁本の指定に特有の表現「發賣頒布ヲ禁止ス」で検索してみた。当該問題に固有のフレーズで検索するという技法といえよう。すると、図書だけでなく、新聞や雑誌の発禁情報がヒットする。

当時は新聞紙法が未だ制定されていない段階で、新聞・雑誌の発禁は、「彙報」欄の「司法、警察及監獄」項目で、「◯発行停止」として載ることがわかる【図2-3】。

 

○發行停止□昨二日發行ノ東京新聞第五號ハ治安ヲ妨害スルモノト認メラレ自今發行停止且ツ同號未配布ノ分發賣頒布ヲ其紙册ヲ差押ヘラレタリ

 

【図2-3】新聞・雑誌の発禁は「彙報」欄 > 項目「司法、警察及監獄」>「◯発行停止」に載る

 

 

■まとめ

デジコレ官報を有効活用するには、やはりまだ固有名詞的なキーワードで検索するのがよいようだ。【表2-1】にも書いたが、法令はまだ日本法令索引を使ったほうがよいし、それに採録されない告示は、上記のように、あらかじめ求める事柄がらみの欄名、項目名、固有の言い回しなどをゲットしておき、それを検索に使う必要がある気がする。

 

■(おまけ)「官報種別」附録など——職員録は別扱い

デジコレ官報には他にも特有の「ファセット分類」(文献の主題を時代や場所といった違う見方から整理する分類法)として、号外、附録などの側面で「官報種別」【図2-1】で絞り込みできるようだが、実際に使えそうなのは法令や告示が1か月ごとに一覧できる「附録(官報目録)」だと思う。しかし、法令を探すのであれば、日本法令索引【図2-4】を検索したほうがよいだろう。

 

【図2-4】日本法令索引

 

 

また、官報附録として重要な政府職員録はNDLにおいて別にコレクション「図書」として整理されており、「官報種別」から直接は行けないので注意されたい。ただし職員録はまだフルテキストなしなので、求める組織の人名は目次から建制順で下りていかねばならない。

職員録 明治19年(甲). 印刷局, 明治19 <14.1-50> 官報1049号附録(1886.12.27)

【図2-5】職員録(東京図書館の部分)

 

 

ついでに言うと、図書のうち帝国図書館本の請求記号にはいくつか特徴があり、<14.>で始まるものはNDL内で「十四点函」と呼ばれた資料群で、官公庁の年次報告類が分類されていた。「14.1-50」といった請求記号でNDLオンラインを検索すると、タイトル等で検索するよりも確実に過不足なく当該シリーズがヒットする(専門的には「請求記号でシリーズ名典拠をコントロールしていた」と言える)。

 


小林昌樹(図書館情報学研究者)

1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。2021年退官し慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。2022年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。同年に刊行した『調べる技術』が好調。専門は図書館史、近代出版史、読書史。詳しくはリサーチマップを参照のこと。

 

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