これまで、日本の読書界において東アジアの知性史といえば、一般的には儒教史や道家思想、仏教史といったものに代表されがちであり、ま たその中心は旧中国であったことは否めません。
しかしながら、古代より朝鮮半島における知的活動が、日本列島に大きな影響を及ぼしてきていることは隠れもなきことです。李朝朝鮮における大儒、李退渓 （李滉、1501-1570）の思想が、林羅山、藤原惺窩、山崎闇斎といった人々に大きな影響を与えた事実は、関心のある向きには辛うじて知られている、 だがかなり重要な知的交流の証拠です。また、旧中国の科学史・科学思想研究はＪ・ニーダムの膨大な業績や、山田慶児『朱子の自然学』（岩波書店、 1978）等によって徐々に周知のものとなってきていますが、その一方で李朝期の科学技術史やその思想についてはほとんど知られるところがありません。
しかし、世界史上初めて金属活字が製作され、訓民正音（ハングル）という非常に合理的な文字表記が意図的に考案されたのが朝鮮であることを鑑みても、この 地に科学的合理主義と親和的な知の活動があることは容易に見て取れます。

この度当書肆より刊行されます本書は、この間隙を埋める貴重な業績であり、本邦初の本格的研究論集です。科学史や朝鮮史の研究者のみならず、東アジアの知 性史をこれまでのイメージに囚われず、広い視野から見直す必要性を感ぜられている方々に広くお薦め致します。

目次
まえがき
李朝科学技術史の特徴と基本性格
李朝時代の技術教育
李朝時代の医学書出版事業の特徴
李朝前期手工業の性格について
一五世紀の諸科学
『世宗実録』に関するいくつかの考察
弘文館に関する歴史的考察
朝鮮実学派とその著書
朝鮮実学派の科学思想
李朝後期における手工業の変遷
李朝後期の金属加工業の形態について
一九世紀開国以前の諸科学
金正浩『大東輿地図』の版木と獄死説
『漢城旬報』と開化思想
交通運輸の発展と近代的逓信の出現
李朝末期の近代建築 朝鮮科学史主要文献
解題
あとがき


著書（編著）
『朝鮮の科学と技術』（明石書店）、『朝鮮科学文化史へのアプローチ』（明石書店）、『現代朝鮮の科学者たち』（彩 流社） 、『実学史研究』（思文閣出版）［共著］

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