神保町のんしゃら日記16(2025年4月)
2日(水)宇井眞紀子さんの写真展を、赤羽の青猫書房に見に行く。飯田橋の花あしべで、小さいアレンジメントを作ってもらう。間引いた小枝や落ちた花も大事に飾っている店で雰囲気がよく、店員さんのセンスもいいので最近気に入っている店。宇井さん、展示会の準備をしながらクラウドファンディングの準備もされている。頭が下がる。
4日(金)新刊企画に関連した映画の試写へ。方向音痴炸裂、途中で逆方向のバスに乗ってしまい、あわや遅刻……。なんとか間に合った。映画は素晴らしかった。この主題に対する違和感が晴れてイメージの精度が上がる。終了後はデータベースの打ち合わせ。
5日(土)宇井眞紀子さん来社。「アイヌ100人のいまⅡ(仮)」のクラウドファンディングの打ち合わせ。公開は22日だが、クラファンは事前準備が大事なのでやることがたくさんある。頼もしい助っ人の方も参加してくれて、ありがたい。
6日(日)雨模様だったが、午後から天気が回復し、ウルトララズベリー(種類としてはラズベリーではないそうだ)の植え替えをする。根が庭に蔓延っていて大変だった。地植えしたら、たった一年で相当に地下茎を伸ばしてる! それらを取り除き、不織布ポットに植え直した。
そんなことをしながら、ああ、右腕になる人がほしいなあと、考えるともなく考えている。アスパラを初収穫したので、生で齧ってみると、みずみずしくって甘い。ブルーベリーの花も見頃だ。夜は、畳二畳分ほどにまでなってしまったセリを収穫して、セリ鍋に。
7日(月)午前中いっぱい、企画会議。帰宅すると、ジャバラの木が届いていた。この果汁が花粉症に効くそうだ(河原談I)。シンボルツリーとして、ここに転居してきてからずっと植えられている紫陽花と植え替える予定。
8日(火)仕事で気の滅入ることあり。つい誰か、何かのせいにしたくなるが、誰が悪いわけでもないからもどかしいしやるせない。家でもちょっとした入れ違いがあり、ゲンナリ2割増し。ため息の連続。こういう日はお腹を満たして寝るしかない。
9日(水)一晩寝て頭を切り替える。落ち込んでいる暇はない。今整っている条件で最適の選択をするしかない。対策を模索しはじめる。
10日(木)『パレスチナ、イスラエル、そして日本のわたしたち』(担当楠本)と『近代出版研究4号』(担当河原)の発売日。どちらも力がこもった新刊。売れる本=良い本ではないが、一冊でも多く販売しなければと思う。資本主義社会の中で、売上だけではその価値の測れないものを販売していくことには非常な葛藤がある。葛藤しながら継続していくには、薄くても利益を出し続けていくしかない。
14日(月) 税理士さんと月次の打ち合わせ。むむむ。
17日(木)ビックサイトにAI関連の展示会を見に行く。大きな予算のつきやすい分野だからか、大手企業からベンチャー企業まで玉石混交。最先端技術の展示会かと思いきや、キャンペーンガールがブース前でうまい棒を配るような昭和の営業が多かったのは、決裁者が昭和世代だからだろう。嫌悪をかんじると同時に、うまい棒はこういう場所にも販路を持っているものだと感心する。AIは適切な付き合い方を学べば良い味方になるし、安易に飛びつけば搾り取られる事になるのだろう。出版業界でもAI活用の話はよく聞くが今後どうなるか。隣の会場では外食産業の展示会をやっていたのでついでに眺めて帰る。1ブースごとに試食やサンプルをくれる。デパートの上の大物産店にでもいるような気分。業界誌の日本食糧新聞社が主宰で本の販売もしていた。「野菜株式会社」というストレートな名前の会社が、長テーブルに大根やキャベツを積んであるのをほほーと眺めていたら、「帰りの荷物減らしたいから、これあげる!」といって大玉キャベツをもらってしまった。AIの展示会に来てキャベツをもらうとは……鳩が豆鉄砲くらったような顔をしてたに違いない。すごく中身のつまったキャベツで、かばんが肩に食い込んで痛い。肉厚で大変美味しいキャベツだった。(後日、このキャベツの芯から全体を再生できないか試してみた。6月現在うまくいっている。)
18日(金)週刊金曜日の短評に『パレスチナ』掲載。今日から『近代出版研究』のフェアが東京堂で開始。うちの本だけでなく全体できちんとお店に貢献できるといいのだが……。早速フェアの中にある、飯田一史さんの『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』(平凡社新書)を買う。GW中に読む用。
20日 (日)サラダ春菊がもおしまいの時期なので全て抜く。食べそこねた一部は花が咲いてしまい、その花がとても可愛らしいので、ついぞ花なぞ買ってきたこともないのに、コップに挿しておいた。花びらがぜんぶ黄色のマーガレットといったようす。しばらく保つといいな。
22日(火)東京堂ランキングで『近代出版研究4』が1位に!文字どおり目玉がとびでるかと思った。ちょうど本屋大賞の時期に発行することもあって、絶対に1位はないだろうなと思っていたのに。先週2位だったので1ランクアップしたことになる。3200円もする本を、みなさん買ってくれて、本当にありがとうございます。東京堂さんにも足を向けて寝られません。ちなみの今年の本屋大賞の阿部暁子さんは花巻北高文芸部の卒業生で、私も高校文芸部時代に、県大会授賞式の会場で見かけたことがあった。なんの繋がりもないのだが、同郷の人が活躍しているのは嬉しいことだ。
24日(木)今日から宇井さんとのクラファンスタート。ここまで楠本さんが主導して入念な準備や事前告知をしてもらったおかげもあり初速は順調でありがたい限りだ。発売は10月なのでまだ少し先だが、2ヶ月弱しっかりフォリーしていかなければ。目標金額は200万円。
25日(金)新年度のデータベースのカタログの制作が大詰め。連休明けから営業活動がはじまるのでそれまでにでかさなくてはいけない。毎年毎年、年明けからすぐに作業にかかればいいのだが、それができずにいつも連休前にあくせくすることになる。愚かなり。小林昌樹さんが来社、新著の『立ち読みの歴史』(ハヤカワ新書)を恵投いただく。これもGWに読もう。
27日(日)初めてのオペラ鑑賞。お世話になっている編集者のご夫婦に誘ってもらった。日本フィルハーモニー交響楽団の公演で、演目は「仮面舞踏会」、英国植民地時代のボストンが舞台の「愛と裏切り、そして赦しの物語」だそうだ。広岡淳一さんの指揮のなんとイキイキとしていることだろう。見ているだけでこちらもにこにこしてしまうほど、全身全霊で音楽を楽しんでいるのが伝わってくるような指揮だ。俳優さんたちの声量にも驚かされる。ストーリーはロミオとジュリエットのようなもので、ボストン総督のリッカルドと、その腹心の部下の妻カメーリアとの恋。おりしも永野芽郁さんの不倫が話題になっており、おんなじことでも長い時間が経って利害関係者がいなくなれば、エッセンスの部分だけが美化および誇張されて、オペラの演目にまでなるのであるなぁ、人間とはいいかげんなものだと思ってしまう。終幕後に中華屋で食べたオイスター焼きそばが大変美味しく、再現方法を考えつつ帰宅。
28日(月)早速家にあった材料でオイスター焼きそばをやってみて、たしかに美味しいけど、なんかちがうなあという感じ。近々もう一度。
29日(火)昭和の日。キウイの雌木に白い花が咲いていた。立体的であまりみたことのない形状だ。中心部にいそぎんちゃく状の器官があって、周りを雌蕊が取り囲んでいる。今年は木を育てる年で実はつけさせない予定。東京堂で買った『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』と、小林昌樹さんの『立ち読みの歴史』を読む。主眼もアプローチも異なる二冊だが、両方読むと相互補完的に、近代〜現代にいたるまでの小売店像、読者像をみせてくれる。共通する参考文献も読んでみよう。やはり本は近接するテーマのもの複数に目を通すに限る。よく「これ1冊でわかる〇〇」といったタイトルやコピーの本をみるが、何か一つのことを知ろうとしたときに、1冊でわかるということはまずない。そんなことを言うのは出す側も驕っているし、1冊で知った気になるのも安直すぎる。
30日(水)支払日、忙しい。毎日使う駐輪場の隣家に葡萄の木があって、もう花が咲いている。何年も使っている駐車場なのに何の木かきをつけて見たことがなかった。自分で育ててみると解像度が上がる。