皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

番外編 ベストセラーの続編『もっと調べる技術』が刊行――連載「大検索時代のレファレンスチップス」をまとめ、情報史エッセーを足しました

小林昌樹(図書館情報学研究者)

■ベストセラーの続編を書きました

在野研究者、趣味人のため、マニアックな文献・情報参照法を本にまとめたところ、意外や1年で3万部ほど売れました【図1】。

けれど、本を出した2週間後に国会図書館(NDL)のデジタルコレクション(大規模電子図書館)が大幅に刷新され、その後ネットで直接見られる範囲も大拡大。調べる環境がガラリと変わったので、版元に請われて連載「大検索時代のレファレンスチップス」を書いたのは本メルマガ読者さんにはご存知のことかと思います。

その連載が『もっと調べる技術』という本になりました(6月18日発売)。

【図1】前著『調べる技術

 

■事例の多くが私(著者)の趣味や研究がらみ

連載をご覧の方々には明らかですが、中身は、本の探し方(分類で探す)、ビジネス関係者やアイドルの調べ方、言葉の流行りすたりや来歴の調べ方、ファミリーヒストリーの調べ方、無料のWEBツール(国会図書館サーチ、国会図書館デジタルコレクション)の使い方などです。版元HPに目次一覧があり、「試し読み」もできるようになっています。

要するに汎用ネット情報源の使い方を書いたものなのですが、なんにでも使えるツールは、何に使えるかを例示しなければ、どう「使い物」になるのかが分かりません。そこで多く使ったのが、自分の趣味や研究がらみの事柄でした。

 

■小さなお店の歴史は――ある模型店を事例に

街の小さな店を調べるにはどんな資料をどのように使えばいいか、事例として街の模型店を用いました。そこでは古い電話帳、住宅地図といった汎用ツールから『ホビージャパン』『航空ファン』といった趣味雑誌【図2】の活用法まで書かれていますが、その店は実は私の親が去年まで半世紀近くやっていた店なのでした。1977年の開店時のチラシから始まって、どんな資料(紙もの)に情報が載ったか、あらかじめ答えを私は知っているので、それを現在ただいまどのように検索できるか、その手練手管を、元国立図書館レファレンス担当の観点からで紹介したものです。

【図2】趣味雑誌の活用法:広告を使う

 

■推し活――アイドル文献を調べる

大宅壮一文庫に京王線で行った際に、八幡山駅から行く途中にカルチャーステーションというアイドル文献専門の古書店があってビックリ。大宅文庫にアイドル文献を調べに行く人達向けにそこへ開店したものでしょう。アイドル文献を調べたいというニーズは意外と強い。

そこで以前、私がファンクラブに入っていた元アイドル(?)木村佳乃さんを事例に、現在ただいま古本、図書館でどこまで資料が検索できるか、集まるかやってみました。

【図3】ファンクラブ会誌はどこでゲットできる?

 

■実は本書は「本の本」

ほかにも、ビジネス人を調べる章では古書店や図書館関係者など、言葉の来歴(語誌)の調べ方では「よむ」という日本語の意味の起源や成り立ちについて、言葉がすたれる(使われれなくなる)時期については明治初めlibraryの定訳「書籍館」がいつ頃「図書館」に代わったのかなどなど。事例に本がらみの事柄を用いたので、本書は「本の本」でもあります。

 

■情報史のエッセーを足しました

しかし、連載の読者なら、単行本化で何が足されたか知りたいでしょう。次の3章分がそれです。

1講 NDLデジタルコレクションは国会図書館のDXである

2講 国会図書館にない本を探す法

あとがき 地図なきダンジョンの歩き方

ネットのデジコレをはじめ、良くも悪くも、日本のレファレンス資源(調べるソース)がいちばん集まっているのは永田町の国会図書館です(1講)。そしてそこにないものをどうすれば入手できるかと言えば、それは古本システムを使うことになるわけです(2講)。そして、なぜ著者の私が前著を含め、とりとめのないネットの航海術を指南できるかと言えば、紙時代の情報の大海を航海したことがあるからです(あとがき)。古本の第2講はハウツーの章ですが、NDLのDXとダンジョンはハウツーを展開するための世界観の解説になっています。情報史のエッセーと言ってもいいでしょう。前著でも、ハウツー本としてより情報史のエッセーとして楽しんでくれた読者がおられました。

 

■昭和36年のウィンドウズ器械が2年前からみんなにも

あとがきで、1961年に瞬間、NDLの書庫内に出現した移動式キャレルを紹介しましたが【図3-a, b】※、これは今のWindowsにあたるからなのです。

と言っても何が何だかわからないでしょう。言い換えると、このキャレル(閲覧ブース)は、すべての文献が集まるNDL書庫内を自由に動けるレファレンサー用のもの。つまり、現在我々がPCの多数窓(=Windows)でNDLデジコレ文献を多数参照するのと、全く同じ機能が果たせる器械なのです。NDLにはすべての文献が集まる(ことになっている)ので、インターネットがない時代でも、全日本語文献から選んだ複数の文献を引き比べる、つまり参照することができたのです【図3-b】。

 

【図3-a】NDL書庫内キャレル(移動式)

【図3-b】あらゆる文献から選んだ複数書を引き比べる

※小林昌樹「移動式キャレル(ビジュアル国立国会図書館博物館)」『国立国会図書館月報』(569/570) p.11、2008.8.

 

我々ははじめて、1961年にたった100人程度の選ばれた人しか出来なかったことを、いま在宅のままできるようになったわけです(NDLデジタルコレクションのこと)。

 

■職人レファレンサーの暗黙知を言語化したのが本書

戦後、NDLでは国民向けに約100人、議員向けに100人ほどが76年間、レファレンスを行なってきました。けれど、そのコツや予備知識、ツールの使い方といったノウハウは現場の職人的ベテランに暗黙知・実践知として蓄積されるばかりで、言語化・共有化されてきませんでした。NDL入館時、私は「本出し」(資料出納手)や整理系(目録データを作る部署)だったので、レファレンサーが「何をやっているのか」――正確にはどのようにやっているのか、つまりhowが――同じ組織内なのにわかりませんでした。しかし、自分がそれをできるようになってわかったのは、そもそも意識化、言語化ができない種類の知だったのでした。

私の場合、例外的に外部の大学研究者とつながりがあったので、意識化、言語化する機会があり、前著も本書もそれがきっかけになっています。2002年に廃止されてしまったNDL図書館研究所がもしあれば、そこが考究すべき事柄だったでしょう。

永田町に秘せられた書庫内でレファレンスの神々(朝倉治彦やM上さん、K本さんなど。彼らはとっくに退職しています)が行っていたリファーのノウハウを、プロメテウスやルシファーよろしく、広く日本人一般に知らせてしまったのが本書というわけです。

 

『もっと調べる技術――国会図書館秘伝のレファレンス・チップス2』

小林昌樹 著

発行元:皓星社

ISBN: 978-4-7744-0832-3

定価:2,000円+税

好評発売中!

もっと調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス2

 


小林昌樹(図書館情報学研究者)

1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。2021年退官し慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。2022年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。同年に刊行した『調べる技術』が好評を博し、2024年続編となる『もっと調べる技術』を刊行した。専門は図書館史、近代出版史、読書史。詳しくはリサーチマップを参照のこと。