第3回 分類記号(NDC)を使って戦前の未知文献を見つける
小林昌樹(図書館情報学研究者)
■前に件名でやりました
前著『調べる技術』第5講で、件名を使って〈見たことも、聞いたこともない本を見つけるワザ〉を紹介した。「NDLオンライン」(国会図書館――NDL――の蔵書データベース)を検索する場合、戦後のまじめな本には、本の主題を代表する特殊なキーワード「件名」が付与されているので、それで検索すると、未知の本(未知文献)を見つけることができる、というものだった。
今回は「分類」を使うワザをお教えする。
■前提
■分類に何種類かあるけれど、とりあえずNDCで
近代的な図書分類に何種類かある。世界的にはデューイ十進分類法(DDC)がデファクトなのだけれど、その形式をマネて昭和始めに開発されたのが日本十進分類法(NDC)。国会図書館独自のNDLCというものもあるけれど、NDCが国内ではデファクトを取っているので、NDCで説明する。
さらに言うと、NDLオンラインで、戦前・前後を通じて引ける唯一の主題標目*がNDCだからでもある【表3-1】。司書でない一般人は件名を使うのがよいのだが、戦前の未知文献を探すには当面、NDCを使うしかない。
* 主題標目とは、本の主題を表すメタデータのこと。分類と件名の総称。
【表3-1】NDLオンラインで使える主題標目(件名・分類)
【表3-1】の表側「分類(配架用)」というのは専門用語でいう「書架分類」のことで、要するに請求記号の先頭、図書ラベルの上段に書かれる記号のこと。この記号に従って本は本棚に並べられる。一方で「分類(検索用)」は専門用語でいう「書誌分類」のことで、データを並べるための分類記号。ラベル上段と一致することもあれば、一致しないこともある。
事例【図3-1a,b】は1949年の本。
【図3-1a】ラベル上段は書架分類(破線○)
【図3-1b】請求記号前半は書架分類(破線○)、別に検索用の書誌分類(○)が入力済み
戦前分、戦後分を通してNDCがほとんどの図書(日本語の単行本「和図書」)に付与されているので、NDCを使いさえすれば、明治以降の本はおおむね一括して検索できることになっている。
■NDCの版違い――1980年の前と後
一括して検索できるといいながら、【表3-1】の最下段に示したように、1980年を境に、それ以前の本にはNDC6版の記号が付与され、以降はNDC8、9、10版が付与されていて、ちょっと注意が必要だ。というのも、各版ごとに割当られる分類記号に異動があるためだが、我々はカタロガー(目録担当司書)ではないので、ざっくり言ってNDC8、9、10版は同じNDCと扱ってしまってよい。
むしろここでは、戦前図書に唯一付いている主題標目がNDC6版に限られる点に注目したい。というのも、8版以降とかなり異なる記号となっている部分があるからだ。
6版と8版以降の大きな違いは、8版以降で537自動車工学、548情報工学などが新設されたこと、6類の後半の、670商業、680交通、690通信の一部が廃止されたり(例えば698伝書鳩)、置き換えられたり(例えば675配給がマーケティングに)されたことである。他にも細かいところではいろいろあって書ききれないが、007情報科学の新設などもある。
同じ記号でNDC検索をして検索結果の一覧を見ていたら、1980年前後で本の主題が大きく変わっているような場合、NDC6版と8版以降の違いであることが多い。余談だがNDC7版は画期的に良すぎてNDLで採用されなかった*。
* 当時出てきたファセット理論にあわせて分類委員会がはりきって形式区分の項目をきれいにそろえたり、分類表本体も論理を優先させいろいろいじったので、NDLの現場のカタロガーに嫌われたらしい。現場というものは大きな変化を嫌う。
■十進分類法の基本
ここで誤解されないよう言っておくと、NDC記号は「十進」分類法なので算用数字と異なり、左から順に9つの選択肢で細かくなっていく。6版で698伝書鳩ならば、左端の6が1次区分6産業、2次区分9は通信、3次区分8が伝書鳩、という具合である。従って読み方も「698」は「ロッピャクキュウジュウハチ」と読んではダメで、「ロクキューハチ」と読む(ことになっている)。ただし、1次区分の項目も2次区分の項目も認識しやすさのために右の方向へ3桁になるまで 「0」(ダミーのゼロという)をつけ、例えば6類総記は「600」と標記する。そこで600を便宜的に「ロッピャクバンダイ」と呼ぶことが現場ではある。4桁を越えていくと、これも便宜的に「.」を3桁と4桁の間にかませる。拙著『調べる技術』につくNDCは「002.7 研究法、調査法」なので「ゼロゼロニイテンナナ」と読む。
■事例 たとえば伝書鳩
■NDC検索のおおまかな流れ
一言でいうと、どうにかしてNDCの該当する分類記号を探し出し、それをNDLオンライン詳細検索画面の「分類」で検索すれば、タイトルも、著者名も、キーワードすら思いつかなくても当該図書が見つかる、というわけだ【図3-2】。
【図3-2】マンガ・イラストのレファ本で現役のもののリストを検索した例
【図3-1】は、マンガ・イラストのレファ本で現役のものだけをリストアップしたいとNDLオンラインを検索した事例だ。NDC「726」で前方一致検索(末尾に半角「*」を付け足す)をして、なおかつ、NDLのマンガ担当レファレンス室に開架されている本という条件と掛け合わせると、いまマンガの調べ物で使える本のリストが自動生成される。
■NDC分類表をネットで拾う方法
求めるNDC記号をゲットするにはおよそ2つのやり方がある。ひとつは正統的に分類表をどこかで拾って見てみること。もうひとつは先に求める主題の本を見つけてしまい、それに付与されているNDC記号を使って再検索することだ。
○NDC6版そのもの(要・利用者登録)
日本十進分類法 : 和漢洋書共用分類表及び相関索引 新訂6版 / 森清 原編, 日本図書館協会分類委員会 改訂. 日本図書館協会, 1955
https://dl.ndl.go.jp/pid/2932056/1/144
■伝書鳩についての本
とりあえず伝書鳩について戦前の本を探してみよう。
NDC6版の索引を見ると「Densh …… 伝書鳩 698」と出てくるので、698がNDC6版の分類記号だとわかる。
また以前に紹介したNDL典拠に件名「伝書鳩」を発見したら、【図3-3】のような画面が表示されるはず。
【図3-3】NDL典拠に件名「伝書鳩」
本来なら「分類記号」(昔は「代表分類」と言った)のところに6版NDCが出てくるとありがたいのだが、10版と9版のものしか記載されていない。
そこで右にある「件名検索」ボタンをクリックし、「出版年:古い順」にソートすると、戦後の国会図書館本だが1980年以前に整理されたものが結構出る。みな請求記号前半が「698」である。
【図3-4】件名「伝書鳩」で検索した結果一覧(古い順)
■NDC6版でNDLオンラインを検索
NDLオンラインのトップ、詳細検索画面に戻り「分類」を「NDC」にプルダウンしてからそこに「698」を入力し、検索をかけてみると【図3-5】のようになる。全部でNDC6版伝書鳩の分類が付与されている図書33件が表示されているが、そのうち戦前の21件は件名が付与されていないので、分類から見つかった本である。タイトル中に「伝書鳩」という言葉がある本だけでなく、「伝書鴿」「鳩界」「鳩」といった言葉の本もあり、これらは分類でないと見つからなかった本だろう。
【図3-5】NDC698の検索結果
■余談
かなり前だが北米の日本研究司書さんたちにレファレンスの講義をしたことがある。みな熱心で鋭いツッコミを入れてくれ、なおかつ「このような種類のノウハウを聞いたのは初めてだ」とメールで感想を言ってくれた人がいたことが忘れられない。拙著版元の皓星社社長さんから北米出張の話を聞いて、そんなことを思い出した。
■お知らせ
丸善丸の内本店さんから拙著『調べる技術』にちなんだ店頭販売フェアの提案があり、50点の選書リストを作ったのですが、その元ネタは【図3-2】のような、NDLオンラインで「所蔵場所」と「出版年」で自動生成した500点ほどの候補リストでした。東大の生協書店などでも随時、フェアが行われ、解説つき選書リストのパンフレット【図3-6】もサービスで配る予定です。
【図3-6】「調べの本」50選
■次回は
ちょうど今、chatGPTが話題ですが、あれとレファレンスの関係は、参照技法そのものというより、何を聞いても馬鹿にしたり無視したりしない誠実さといったサービスの枠組みで比較できるのではないか、と考えています。chatGPTはありそうだが存在しない文献名を自動生成しまくるので、むしろレファレンス技法が人間に必須になるような気もしますし。
読書猿さんがchatGPTは正しいことを答えてもらうのではなく、「壁打ち」に使うとよいと言っておられたので、思考実験の相手になってもらうことを「壁打ち」というのはいつ頃からなのかをちょっと調べたのですが、次回は、こういった言い回しをどのように調べればいいのかを解説したいと思います。
小林昌樹(図書館情報学研究者)
1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。2021年退官し慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。2022年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。同年に刊行した『調べる技術』が好調。専門は図書館史、近代出版史、読書史。詳しくはリサーチマップを参照のこと。
☆本連載は皓星社メールマガジンにて配信しております。
月一回配信予定でございます。ご登録はこちらよりお申し込みください。
また、テーマのリクエストも随時募集しております。「〇〇というDBはどうやって使えばいいの?」「△△について知りたいが、そもそもどうやって調べれば分からない」など、皓星社Twitterアカウント(@koseisha_edit)までお送りください。