皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第16回 特別編・20年ぶりの皓星社出版目録を編集して

河原努(皓星社)

 

■出版目録の作り方(一)――出版物の把握

今回はいつもと趣向を変えた特別編として、弊社が今月20年ぶりに刊行した『皓星社出版目録2022』の編集余話です。決して「今月はメールマガジンの配信日が月末の30日だから余裕だな」とだらだらしていたらいつの間にか下旬になっていた、とかそんなことではありませんぞ!

さて、目録作製に着手したのは今年の1月。以来、日々の仕事の合間を縫って、少しずつ作業を進めた。まずは自社出版物の把握からである。社内にあった暫定ファイルは、国立国会図書館に所蔵されている自社出版物の書誌データを引っ張ってきて整形したもの。3年前までで止まっているので、以降に刊行した本のデータを自社ホームページから追加すると同時に、社内の書棚にある自社出版物の現物を確認して暫定ファイルを増補、まずは9割方の本を押さえた自社出版物リスト(Excel)を作った。

出版目録の体裁は、書影の脇に紹介文と書誌情報が載るよくあるパターンに決めたので、書影と紹介文も準備しなくてはいけない。デザイナーにA5判で1頁に6冊掲載するよう依頼して、リストの情報をレファレンスツール制作時のようにタグ形式のテキストファイルに作り替えていく。出版目録に必要な情報は「書名」「著者名」「判型」「頁数」「定価」「出版年月」「ISBN」「紹介文」だろうと、それらを中心に作成。今回は在庫のある書籍だけの出版目録にするので、在庫表とにらめっこして在庫切れのものは除外した。

 

■出版目録の作り方(二)――紹介文

困難なのが「紹介文」である。暫定で組版をしてはじき出した「紹介文」の最長文字数は約140字、SNS「Twitter」と同じ分量だ。現在のホームページ及び、旧ホームページに掲載されている、比較的新しい書籍には原則「紹介文」が付いている。私は前職が人名事典の経歴執筆、つまりある人の生涯を過不足無くコンパクトにまとめる仕事だったため、長いものを短く削っていくのはお手の物だ。弊社は1979年創業、その時点からの出版物で現在も在庫があるものは、少ないとはいえ、存在する。帯に内容紹介があるものはそれを流用できたが、それが無い場合は「はじめに」「あとがき」から情報を拾い、それも無い場合は中身にざっと目を通して無理矢理にでも作ることに相成った。

それに『明治・大正・昭和 雑誌記事索引集成』(全170冊)、『人物情報大系』(全100冊)というような大部なシリーズものは1冊ずつ紹介する訳にもいかず、見開き2頁に情報を収めなくてはいけない。「過去のチラシやカタログがどこかにありませんか?」と晴山に相談すると「ここにありますよ」と「カタログ原本」と書かれた分厚いファイルを差し出された。「復刻もののチラシ類が一通り揃っていて、よかった」と思っていたら、ファイルの中から新書サイズの過去の図書目録(1999年と2001年)が出てきた!【図1】 これで古い書籍の「紹介文」を補完できたのでずいぶん助かった。その上、社内や在庫表にもない未見の出版物も拾うことができた(今回の出版目録の掲載対象からは外れたが……)。よくよくこの目録を読むと「刊行予定」の箇所にこのようなものがあった。

 

『布川角左衛門日記』全8巻 大久保久雄編

岩波書店編集部から、文化産業信用組合、日本出版学会、日本エディタースクールの創設、筑摩書房管財人、栗田出版販売社長を歴任した出版界の長老が欠かさず記録した生きた出版史

 

この日記については私の恩師、稲岡勝や弊社創業者の藤巻からも話を聞いたことがあるが、20年前の目録に「刊行予定」として載っているとはついぞ思わなかったので驚いた。ちなみに同日記は、ある人から「自分の手で出すのが筋だ」と申し出があり弊社は手を引いたそうで、そのうち日の目を見ると思いたい。

【図1】社にも1冊ずつしかありません

 

■出版目録の作り方(三)――分類

目録はどういう順序で排列するか? 社史の付録なら刊行順だろうが、これは販売目録なので同じ分野の書籍を一まとまりにし、分類して並べなくてはいけない(今回は複出は避けた)。結果、こうなった。以下が弊社の専門分野になる。

 

ピックアップ

シリーズ紙礫

ハンセン病関連書籍

芸術・美術

社会・ノンフィクション

歴史

植民地の歴史

文芸

評論・学術

本の本

参考図書

 

「ピックアップ」は弊社を代表する『ハンセン病文学全集』を巻頭に、今年去年と出した『決定版戦没画学生人名録』『全国タウン誌総覧』『大宅壮一文庫所蔵総目録』『長澤延子全詩集』『田村史朗全歌集』を選んだ。

「シリーズ紙礫」はちょっと変わった切り口の文学アンソロジー。「闇市」「街娼」「人魚」「テロル」「鰻」「路地」「変態」「浅草」「図書館情調」「横浜」「ダッチワイフ」「耽美」「基地」「文豪たちのスペイン風邪」「ゴミ探訪」の15タイトル、来月末には16巻目の「女中」の刊行を予定している(「紙礫EX」として「色街旅情」もあります)。

次に来るのが「ハンセン病関連書籍」。40冊以上のハンセン病関連書籍を出しているのは弊社のカラーを決定づけている所、「社会・ノンフィクション」「参考図書」の充実や、「歴史」「植民地の歴史」の2つがあるのも(国内の歴史に関する書籍と同じくらい朝鮮・満洲といった外地の歴史に関する書籍があったので、混在させるより分けた方がスッキリするかなと判断)、創業者である藤巻の志といえましょう。

晴山が社長になってから増えているのは「文芸」と「本の本」。福島泰樹に師事する歌人でもある晴山は、所属する短歌結社・月光の会の機関誌『月光』の発行を引き受ける他、師や歌友の歌集なども刊行、17歳で夭折した女性詩人・長澤延子の全詩集の刊行もその縁の結晶である。

 

■わたしの同人誌もひっそり載っております

この仕事のおかげで自社の全体像が少し明らかになり、現物確認のために社内にない本を倉庫からドサッと取り寄せて長い社の歴史を実感したりと、出版史の片隅にいる者としてはなかなか得がたい経験をさせてもらった。

入稿直前になって「在庫僅少」だった書籍に何故か注文が重なって「在庫切れ」になり、慌てて削除するなど最後までバタバタする一幕もあったが……。まー、そのおかげで組版がずれていき「参考図書」の箇所に4冊分の空白が出来たことから、晴山に「河原さんの同人誌をここに載せて埋めましょう」と言われ、急遽「弊社ウェブストア限定取扱同人誌」として『「出版年鑑」掲載全訃報一覧』『昭和前期蒐書家リスト』と小林昌樹『ピンバイス40年史』の3冊が出版目録に紛れ込むことになった。

本当は「書名索引」「著者名索引」を付ける予定だったが、秋の営業に間に合わせるため、今回は涙をのんだ。次版からはちゃんと索引を付けますので、今回はご了承ください。

 

■小山さんからの遺伝

弊社創業者の藤巻は、かつて師と仰ぐ小山書店・小山久二郎に聞き書きをして『ひとつの時代――小山書店私史』(六興出版、昭和57年)を作った。その方法を聞いた際、藤巻は「小山書店の出版目録を一から作って、順に話を聞いていったんだ」と教えてくれた。

本稿の草稿を見せた時、藤巻は「出版目録も作らず、本を出しっぱなしにするのは小山さんからの遺伝かも知れないな……」ともらした【図2】。

【図2】今回つくった出版目録と、藤巻がまとめた『小山書店刊行書目録稿』

 

出版目録をご希望の方はこちらから送料無料で取り寄せられますので、弊社の出版物を手にするきっかけとなれば幸いです。

 


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