皓星社(こうせいしゃ)図書出版とデータベース

第1回 現に今、使えるネット情報源の置き場所――人文リンク集のこと

小林昌樹(図書館情報学研究者)

■はじめの口上――正直に……

三ヶ月前まで国立国会図書館という巨大館で調べ物担当をしていたのが私である。子どもの頃、本を書く人はどうして自分が体験したこと以外のことを書けるのかフシギだった。大学で文献注のある本に出会って、頓悟した。彼らは皆、調べ書きをしていたのである。でも、彼らはどうやって本を知ったのだろう? 膨大な図書を所有し、それらを全部読み、かつ憶えているのだろうか? 実はアメリカだと、図書館は文献参照(レファレンス)をサービスの中核にしており、どうやら本の調べ書きにはレファレンスが重要らしいぞ、と知ったのは、就職のため図書館情報学専攻に入り直してからだった。

今回、縁あって皓星社メルマガの連載記事に、先月まで15年ほど従事したレファレンス業務で身についた文献参照の技術――ここでは「参照スキル」と呼ぶ――について書き連ねることになった。30年弱、上記の「大きすぎる図書館」(造語)で司書もどきをして、今回、思い立って早めに一民間人――これは退官時にあるOBが言ったことば――になったので、組織人だった際には書けなかったようなことも、正直に、わかりやすく書いてみたい。それは違うよ、と議論が巻き起こればなお結構、というスタンスで。

 

◯暗黙知も、説明できると思った

今まで参照スキルをめぐる細かいノウハウは、ベテラン司書や調査員(リサーチャー)によって実践されてはきたけれど、うまく説明されてこなかった。というのも、レファレンス・サービスが調査代行業だと誤認されてきたから。代行業ならノウハウは営業秘密にしたほうが担当者の個人的得になってしまうし、説明する必要もない。そもそも〈無意識的にできるようになったことは意識化して説明しづらい〉のだ。

けれど、長年、他人や自分の参照作業を観察・内省して感じたのは、そういった無意識的ノウハウも、言語化したり、ロジカルに説明できる、ということだった。ノウハウは(結果的には)ロジカルなものなので、ベテラン司書はそれを使うことで、文献引用の海をジグザグに進みながら目的地へ到達していたのである[i]

 

○チップス(小さなコツ、秘訣)に注意!

図書館やネットに広がる文献の海で航海するのはなにも司書や調査員に限らない。趣味でなにかを調べている在野研究者なども辞書事典、データベースなどのレファレンス・ツール(道具。中国語でいう「工具書」。読む本でなく引く本)を使っているだろう。この連載ではそういったツールを使う際の、ちょっとしたノウハウを「レファレンス・チップス」と呼んで、思いつくままに書いていこうと思う。チップスとはICT業界で「ちょっとしたこつやテクニック」のことをいう(デジタル大辞泉)。ティップス(tips)とも表記。英語で”tricks and tips for” で「~の秘訣とこつ」という(英辞郎)。参照のコツ(骨法)、参照の秘訣と言ってもいいだろう。

 

■この世にどんな「使えるツール」が現にあるか:ネット情報源

ところで小さなチップスの前に1,2回くらい、前提となる話題を振っておかねば、と気づいた。いろいろなレファレンス・ツールの置き場である。

 

○大型書誌DBはネットでタダで見られる

永田町の国会図書館や京都・奈良の境にあるその「関西館」、あるいは都道府県立図書館へ行けば、調べ物のための本、参考図書はうち揃っている〈はずである〉が、ここ20年ほど、それらのデータベース(DB)化が進み、特に主要な目録・書誌系はほぼ、ネット情報源に移行した。例えば日本始まって以来江戸時代までの全図書の総合目録、『国書総目録』(岩波書店)は、いま「新日本古典籍総合データベース」(国文学研究資料館)に置き換わっているし、1934年からの膨大な研究文献を採録していたのに累積版がなく、引き切るのに30分はかかった『東洋学文献類目』も、DB化され数秒で検索できる。さらに言えば、こういった人文、総記系――「総記」とは学際的で汎用性がある図書類のこと――のDBは、多くがそのインフラ性がネット以前から認められて公的機関が作っているので、無料で見られるのである。

 

○リンク集があるといいなぁ……

世はGAFAという。つまりGoogleなどが独占的にネットサービスを提供している。ではGoogleがあれば調べ物は足りるのか。無料でネット公開の書誌データはGoogleから引けるのかと言えば、そうでもない。データ構造の問題で、たいてい書誌データは「深層ウェブ」という深くに格納されているので、Googleが泳いでいけないのだ。

では、どの場所(URL)にどんなDBがあるのだろう、その一覧、つまりリンク集があるとよいと、これは誰でも思う。実際、初期にそれを作ったのが、二木麻里氏の「アリアドネ」(1996?-2016)だったが、個人では息切れしてしまう。こういったものは本来、公的に用意すべきなのだろう。

実は公的なDB一覧は2005年まで通産省がらみで維持されていた。紙の冊子だが。それが『データベース台帳総覧』(1983-2005、約5000件採録)である。高鍬裕樹『デジタル情報資源の検索』(2005-2014)という冊子もあったが停まっている。Googleの日本法人が設立されたのは2001年だが、2006年頃に「ググる」という動詞ができてGoogleの優位が確立したので、なにやら2005年前後に、日本の調べ物の世界に画期があったようだ。では2021年の我々にはGoogleしか残されていないのだろうか?

 

○NDLの人文リンク集を知っておくと便利

公的な組織で長く安定的に、ちゃんとしたDBを広い分野で採録するリンク集があればなぁ、と、虫のよいことを考えると、なんと、1つだけあるのだ。

それが先月まで関わっていた国会図書館(NDL)の「人文リンク集」(2011-、約700件採録)である。

 

 

○その利点

今回紹介するNDL人文リンク集は、現に使える人文系及び総記のネット情報源サイト、700件以上を採録するリンク集だ。

 

・現に使える――リンク切れが少ない

この「現に使える」というのは私の表現だが、言い換えると、「現に彼らが使っている」つまり、調べものを毎日ルーチンワークとしている連中が使えると判断し続けている、という意味である。この「続けている」というのがミソで、リンク集の問題はリンク先が割合とすぐに使えなくなる、ということだ。何年か前にこのリンク集の入れ替わりを調べたら、1年でおよそ1割が入れ替わっていた。電話レファレンスで5分以内になんらかの回答をしなければならない時に、あれもリンク切れ、これもリンク切れ、結局リンク切れを確認したと回答するわけにはいかない。一方で、リンク先は公的なところがやっていても、無通告でいきなり無くなってしまったり、それがいつの間にか復活したりするのだ。

 

・咄嗟に選べる――多すぎない

こういったものはどんどん多くなっていくけれど、研究者の「研究」ならいざしらず、実務家の〈参照作業〉なれば、多すぎないということが重要で。電話なら5分、対面なら小一時間、文書なら数日間といった区切りで何らかの答えを出していかねばならない。その際に、各知識ジャンルで代表的ないし網羅的なDBを一通り検索しておく必要がある。その代表的なり、網羅的なりのDBって一体、どれなの?という答えがリンク集搭載で表現されるわけである。自分の専門ジャンルのことなら、誰でも何がDBや資料として重要か知っていても、関連領域となると、その度に勉強せねばならない。その勉強が節約できるわけである。

ん? それで何も出なかったらどうなるのかってか? それは答えがどこかにあるにしても、「参照」作業で出るような疑問ではない、ということになり、利用者自身がじっくり取り組む「研究」モードに移っていくしかない。

 

・NDCさえ知っていればどこへでも飛べる

これは司書的素養がないとなかなか共感してもらえないのだが、日本十進分類法(NDC)順に各ジャンルや個々のリンクが並んでいるのが利点である。個人や非図書館系がリンク集を作ると必ず自分を中心とした世界観でアイテムを配列しようとする。その結果、有限な自分から遠い存在が「その他」として周辺に追いやられるのはよいとしても、本来異なる種類のそれらが「その他」の中でグチャグチャになっていく。

NDCでもDDC(デューイ十進分類法)でもNDLC(国会図書館分類)でもよいのだが、とにかく全知識を配列しきる建前の「一般分類表」でないと、特に総記の部分(総記には全体と全体論と下位の大部分と下位のどれにも入らないその他が入る)がグチャグチャになる。

 

 

○実際に見てみよう――例えばマンガ学

ここ30年ほどでマンガは芸術娯楽の実践だけでなく、技法論を中心に学問としても成立しつつある。では、マンガ作品集及びマンガ研究書はどこで読めるだろうか。あるいは、著名な作家の若書き同人誌にどのようなものがあるか、どこで知ればよいのだろう。

例えばこの前亡くなった谷口ジロー――『孤独のグルメ』が人気――について調べたいとする。

The Doujinshi & Manga Lexicon を、著者名「谷口ジロー」で検索すると商業マンガしか表示されない。おそらく目下、同人誌書誌が、おそらく世界最大規模で採録されているこのDBに出ないということは、ないか、あってもかなりレアなものである可能性が高い、ということになる。

米沢嘉博記念図書館 に「研究書、研究雑誌(一部特集名)」と注記があるので、タイトル欄に「谷口ジロー」を入れて検索してみる。すると、亡くなった翌年に出た『谷口ジロー 描くよろこび』(2018)が出てくるのは当然として、『試し読み小冊子 谷口ジローの世界』(2009)というレアな小冊子を所蔵していることがわかる。

また、ベテラン司書ならば、マンガ評論が社会学や国文学で行われてきたことも知っているはずだ。マンガ学から飛んで「国文学論文目録データベース」を「谷口ジロー」で検索すると、次の文献が見つかる。

・Schlecht, Wolfgang E.「Die Graphic Novel als Mittlerin zwischen den Kulturen – Jiro Taniguchis Comic-Roman “Vertraute Fremde”」『早稲田大学創造理工学部 社会文化領域 人文社会科学研究』(53)p.139-159(2013)

Google翻訳によると「文化間の仲介役としてのグラフィックノベル-谷口ジローのコミック小説「ファミリア・ストレンジャーズ」だそうな。これなどはネットに著者本人が論文書誌を出しているし、Googleもクロールしているが、途中に論文DBを噛ませなければほぼ行き着けない論文であろう。

人文リンク集のような広汎なジャンルをカバーするリンク集の利点は、こういった学際的アプローチが取りやすいことである。

 

○リンク集の工夫

 

・便利ツールというジャンル

NDC順でない主類(十進分類の大きな枠組みのこと)がひとつある。「便利ツール」と称しているところだ。ここに排列されているリンクはもちろん他の主類に排列できるものだが、他のDBと組み合わせで使う補助かつ汎用的なDBが並んでいる。

例えば「みんなの知識 ちょっと便利帳 旧字体(旧漢字)⇔新字体(新漢字)相互変換」はその名の通りのDBだが、これはGoogleブックスの戦前分を検索する際に使うことになる。戦前の文献を読む人なら、正字(旧字)と新字で字形が明確に違うものは憶えているものだが、違いが微妙なだけの字もあり、一応こういった機械的置き換えを通して検索キーワードを作ったほうが、間違いがない。

 

・リンクが踏めない項目――一見、欠点に見えるが

たとえば新聞記事索引>全国紙>聞蔵Ⅱビジュアル(朝日新聞)は、項目だけあってリンクが踏めない。そして「※当館契約データベース(館内限定)」と注記がある。これは、永田町(か京都府精華町)にまで行けば、館内で閲覧できますよ、ということであり、このリンク集を使っている人に、どこかでこれを引く必要がありますよ、というためである。

 

○ここに注意――その欠点

各リンクに最小限のメモはあるが、解題、説明文がないのは、一覧性を確保するためだったとはいえ、欠点といえば欠点だろう。

凡例に「対象とするジャンルは、人文科学および総記分野(0~2類、7~9類。ただし、140〔心理学〕および780〔スポーツ〕を除く)です。なお、520〔建築学〕のうち建築史・建築美学、699〔放送事業〕は対象とします。」とくだくだしく書いてあるのは、「他課の担当は除いてある」という意味である。国会図書館が2002年に法政班、社会班、人文班を抱え込んだ参考課を解体して「主題部門制」を導入した際に生じた副作用といってよい。

3類(社会科学)や4、5類(科学技術)のリンク集があれば便利、とだれでも思うだろうし、私も思ったし、あるべきである。けれど、少なくとも国民が見える場所にはないようである。

トピックごとに、どんなDBや参考図書を使うべきか書いた小さなメモで「パスファインダー」と呼ばれるものも、おなじサイト「リサーチ・ナビ」内に多数、用意されているが、こちらは小さな主題、トピックごとのもので、うまくトピックを引き当てるのが難しいし、用意されてないジャンルも色々ある。広いジャンルを横断してツールを一覧してくれる機能は現在のところ人文リンク集ということになる。

館内、館界、両面でまったくプレゼンスが不十分というのも欠点ではあろうけれど、むしろこれは、余計な雑音が入り込まないという利点でもあろう。現に調べをつけている実務家がこれを使っている、という点で、しばらくは人文リンク集より便利なものは出てこないのではあるまいか。

 

■次回以降の予告

・ネット上人物情報で、確からしいものを拾うワザ:名称典拠を簡易人名事典として使う

・ノウハウにも大きさがある:汎用度の問題

・この世にどんな使えるツールが現にあるか:参考図書編 NDL ONLINEを使って

・Googleブックス ページ数誤植 フレーズ 旧漢字

・索引の排列 よみ、ローマ字、電話帳式 letter by letter word by word

・ヨミダス検索の秘孔を衝く:概念索引と自動索引と

・戦前の新聞記事を見つける:日付確認法+東京五大新聞

・要素合成検索法:下位要素をとにかく2つ

・「として使う」法 eg. 新聞DBを百科事典として使う

・答えから引く法 eg. 頼朝の刀の銘は?

・キーワード置き換え法:普通名詞>固有名詞変換法、わらしべ長者法

・ざっさくプラスの得失:総目次「細目」から入力された戦前文芸雑誌

・未知文献検索 日本語件名の本当の使い方(NDLSH細目の不備をどう補完するか)

 

 

[i] 小林昌樹, 村尾優子. レファレンスの事例分析から汎用スキルを抽出する試み:その共有のために. 図書館雑誌. 2017, 111(2), p.75-77

 


小林昌樹(図書館情報学研究者)

1967年東京生まれ。1992年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務。2021年に退官し慶應義塾大学文学部講師。専門はレファレンス論のほか、図書館史、出版史、読書史。共著に『公共図書館の冒険』(みすず書房)ほかがある。詳しくはリサーチマップ(https://researchmap.jp/shomotsu/)を参照のこと。

 

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