子不語の夢―江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集
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『子不語の夢』刊行に、多くの言葉が寄せられました。忘却の井戸を掘り、追憶の洋燈を磨く時、私たちは孤独ではないようです。喜びを、いざともに。しみじみを、いざともに。

(『子不語の夢』編集スタッフ代表 浜田雄介)

平井憲太郎小酒井美智子

亜駆良人芦辺 拓井家上隆幸石塚公昭大熊宏俊岡崎武志川崎賢子喜国雅彦今日泊亜蘭日下三蔵倉阪鬼一郎小二田誠二小林文庫オーナー沢田安史島村 匠新保博久千街晶之高原英理竹本健治田村七痴庵垂野創一郎津原泰水戸川安宣中村有希濤岡寿子南陀楼綾繁二階堂黎人原田 裕東 雅夫藤原義也三浦しをん森 真沙子山田正紀山前 譲

書評・新聞による紹介記事

スタッフ敬白
小松史生子
阿部 崇村上裕徳末永昭二

小酒井不木主要著書目録

編集後記

 平井憲太郎  『月刊とれいん』編集長、江戸川乱歩令孫


小酒井さんちと私

 我が家では、小酒井さんはいつも特別な人だった。
 小酒井さんちの千早ちゃんと治ちゃんと、そしてお母さんがよく家に来ていて、祖父の還暦祝いの大きなパーティなんかでも、大人たちの小言を尻目に一緒にテーブルの下に潜ったりして遊んでいた。彼らとは年齢が近かったので、そういう堅苦しいときのいい遊び仲間だったのである。しかしその時には、なぜ小酒井さんが私たちの家と親しいのか、私は知らなかった。彼らのおじいさんが、うちのおじいちゃんの恩人だった、と知ったのはずっと後のことである。彼らのお父さんがお医者さんだったのはよく知っていたが、おじいさんもお医者さんで、そして探偵小説を書いていたってことを知ったのは、もっと後のことである。
 いま、多くの方がたのご苦心によってまとまったこの本を見て、その時代のことが手に取るように目の前に浮かんでくる。千早ちゃんや治ちゃんと遊んで五十年を経て、なぜ彼らと楽しく遊ぶことができたのか、その理由が本当にわかってきた。

 小酒井美智子   小酒井不木著作権継承者


乱歩先生の思い出

 『子不語の夢―江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』の刊行で、私は本当にうれしく、ありし日の乱歩先生をなつかしく思い出しています。主人と初めてお宅に伺った時から、四半世紀にわたる長いおつき合いが私の青春時代でした。本を読みますと不木も身近に感じられてありがたく、出版を心より感謝しております。

 亜駆良人  畸人郷

 ここから日本の探偵小説が始まったのだ  本書は探偵小説黎明期の貴重な書簡集である。時に乱歩二十九歳、不木三十三歳。そこでは乱歩が、不木が、正史が、西田政治が躍動している。書簡の一つひとつを読むたびに心が躍るような感じがする。そして、探偵小説に対する情熱が漲ってくるのを感じるのだ。つけられた脚注も、まさに鬼気迫るものがある。例えば、大正十四年四月九日付の書簡を見よ。ここから日本の探偵小説が始まったのだと感じるのは私だけではあるまい。
 芦辺 拓 探偵小説家  芦辺倶楽部


僕らが会いたかった乱歩

 江戸川乱歩ほど自分について語り、しかも肝心の部分を隠しおおせた作家はいません。僕ら間抜けな探偵は、彼がばらまいた大量 の証拠に目をくらまされ、今もって真実をつかめずにいるのです。
 全ては、彼が望んだ通りの〈乱歩〉像を残そうとした結果。けれど本書には、そうした韜晦にぼやかされる以前の姿が息づいています。小酒井不木の前で作家専業の決断に迷い、探偵小説ファンの拡大に腐心し、出版状況に一喜一憂する大阪時代の彼―そう、僕らが会いたかった〈乱歩〉が。

 井家上隆幸 コラムニスト


読みどころは主観的脚注

 大正から昭和初年にかけての書簡は、探偵小説史・乱歩研究の資料となろうが、村上裕徳の主観的脚注が一番の読みどころ。研究家の議論を呼ぶ、かもしれぬ 。

*『図書新聞』第二七〇七号より抜粋

 石塚公昭 人形作家


屍蝋と産毛


 11月某日 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集『子不語の夢』を読む。『白昼夢』に出てくる屍(水に浸かった死体が石鹸状になる)だが、死体はそう簡単に屍化しないようである。中学生の私でもおかしいとは思った。しかしそうだとしても、『白昼夢』が短編の名作である事に変わりはない。乱歩作品には『白昼夢』以外にも、人形だと思ったら産毛が生えていた、という場面 があるが、私の使用している粘土はパルプの繊維が入っている。ペーパーをかけるとまさに産毛状に毛羽立つ。使えるかもしれない。

*ウェブサイト Kimiaki Ishizuka's Homepage「身辺雑記」より抜粋

 大熊宏俊 自営業  とべ、クマゴロー!


とにかく面白いです! 

 これはすばらしい! 探偵小説勃興の最初期、いわば無から生じたその瞬間を追体験できるすばらしい記録といえる。十年にも満たない年月に、探偵小説が、乱歩という天「恵」の器を得て物凄い速度で蔓延っていく様が読み取れて興奮します。不木と乱歩の人間そのものが行間から見えてきます。不木は何の他意もない素直な気持ちで、乱歩を盛り立てようとするのですが、その不木を乱歩は次第にうっとうしく感じ始める。そしてその気持ちもすごくよく判る。He is not he was でデヴュー当時の庇護はもはや必要ないのに、不木はその変化が分からないのですね。とはいえ深い部分での盟友意識は不変なのであり、不木の死後の乱歩の行動は、まさに礼を尽くしたもので乱歩の人間性を現しています。  とにかく面白いです! 例の脚注も、うわさどおりの読み応え満点で、「ほんまかぁ!?」と突っ込みを入れながら楽しんだらよいのでしょう。

*ウェブサイト ヘリコニア談話室より抜粋

 岡崎武志 古本ライター


悪いなあ、こんないい本送ってもらって

 12月13日(月)はれ 皓星社のS助教授(とみなが呼ぶ)から、浜田雄介編『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』を贈られる。乱歩不木自筆書簡の画像を収めたCD―ROM付き。本文注の詳しさにたじろぐ。悪いなあ、こんないい本送ってもらって。

*ウェブサイト 均一小僧の古本購入日誌より抜粋

 川崎賢子 文芸評論家


『子不語の夢』にめざめる

 わたしたちの時代の闇はますます深い。
 一九二〇年代、三〇年代の文芸文化に親しんだ者にとって、現代の闇は既視感をもよおすほどのものである。そんなことを言ったからといってうれしいわけではない。歴史は繰り返すというが、繰り返しの中にある現在はなんとも退屈である。繰り返されようとしている一九二〇年代、三〇年代の時空のほうには、むしろ未知の驚きが潜んでいる。
 この時代の文芸事象を代表する探偵小説ジャンルの生成、『新青年』メディアの台頭、そして、そのただなかに、ひとびとに待ち望まれて登場する巨星・江戸川乱歩。だが『子不語の夢』のなかで、乱歩はいまだ作家として立てるかどうか、ためらいと迷いのうちにあり、しかも迷いつつも初期の傑作を次々に発表している。彼を真先に認めた、そして彼が真先に認めてほしいとねがった小酒井不木との往復書簡には、自分自身を発見しようともがく乱歩がいる。それはこれまで読者の知らなかった江戸川乱歩である。
 不木は早すぎる晩年を生きている。乱歩は三十代にしてまだ小説家に専念すべきか否か、きわめて現代的なモラトリアムの悩みを抱いている。年齢の離れた二人の男の書簡は、新しい時代の率直な文体でつづられてはいるものの、礼節と敬愛がにじみ、どこかなまめかしい。
 充実した脚注に教えられるところは多く、昭和期の「変態」概念をディレッタンティズムにむすびつけた解釈など溜飲が下がったが、最晩年の不木に、『新青年』ファンにとっては伝説的なプレイボーイ中村進治郎がかかわっていたということ、進治郎の妖しくもまがまがしき影を横溝正史「真珠郎」に読むといった指摘には、驚嘆した。

 喜国雅彦 漫画家  喜国雅彦の「本棚探偵の囁き」

「異論」よ起これ

「乱歩と不木の書簡が本になる」と聞いたときに、はたしてそれだけで場がもつのか? という疑問がわきましたが、なるほどこういう方法があったのかと感心しました。読後、望んだことはただ一つ。今後、この本を(邪馬台国論争のような)知的遊戯として楽しむために、ぜひとも「異論」の登場を望みます。
 今日泊亜蘭 作家


こりゃ面白そうだ

 ふうん、妖怪を語らずってやつだな。そういうのを語るなアろくでもねえお仲間だってわけだ。この、表紙がいいね。うん。いいよ。(胸元に手首を持ってきて)こういう幽霊じゃなくってさ、かといって今の機械みたいな化け物でもなくって、ちょっと雰囲気の違う幽霊が出そうじゃねえか。デザインがいいよ。これは誰がやったの? あ、そう。いい表紙だよ。こりゃ面 白そうだ。

* 編者・浜田雄介聞き書き

 日下三蔵 ミステリー研究家


第一級資料の書籍化として理想的ともいえる編集

 推理小説に興味のある人で、江戸川乱歩の名を知らない人はいないだろう。本格ミステリから怪奇小説、少年ものから評論まで幅広く手がけ、国産ミステリの基礎を築いた巨人だ。その乱歩が「二銭銅貨」でデビューを果 したときに推薦文を寄せたのが、探偵小説通として知られた医学博士の小酒井不木であった。
 江戸川乱歩としてデビューしたばかりの青年・平井太郎が不木に挨拶する大正十二年の第一信から、病身の不木が世を去る昭和四年まで、七年間に及ぶやりとりは、二人の作家活動の軌跡と重なって圧倒的な面 白さだ。
 片や乱歩は、不木の勧めで職業作家への道を選び、みるみるうちに流行作家の頂点へと登りつめていく。片や不木は、乱歩の活躍に刺激されて自らも創作の筆を執り、病身とは思えぬ 量の作品を精力的に発表していく。
 手紙自体の面白さに加え、村上裕徳氏による詳細な脚注が、文面から伝わる情報を補って奥行きのある解説となっている点にも注目したい。書簡の写 真をすべて収録したCD―ROMがついて、二人の筆跡を直接みることができるというのも画期的だ。
 第一級資料の書籍化としてほとんど理想的ともいえる編集がなされた充実の一冊である。

*『週刊大衆』二〇〇四年十二月二十七日号より抜粋

 倉阪鬼一郎 怪奇小説家


これはむちゃくちゃ面白い

二〇〇四年十二月三日 (金) これはむちゃくちゃ面白い。本文もさることながら、詳細を極めた脚注も秀逸。ロンブローゾなどの勘どころを周到に押さえているばかりでなく、手紙の文章の意図が那辺にあるかと推理した部分も切れ味がある。P79の「有無を言わせず乱歩を承諾させる詰めの王手」には思わず笑ってしまった。
 脚注はかなり不木びいきなのですが、それもそのはず、本書を通読すればきっと不木ファンが増えることでしょう。これだけ学があって病身だと性格がねじ曲がったりするものですが、裏表のないまさに快男児といった印象で、よろずに扱いにくい乱歩とは対照的。
 この二人をめぐる脇役陣も多彩、ことに国枝史郎の影がこんなに濃かったとは。その他、内容に言及しているとキリがないのでやめますが、かつて読んだ長谷川修と野呂邦暢の往復書簡集と同様、最後にやや疎遠になるところは少々哀しいものがあったかな。

*ウェブサイト Weird World より抜粋

 小二田誠二 静岡大学助教授  小二田研究室の頁

CD―ROMに感激!

 CD―ROMには、本当に感激です。文字列検索→画像(サムネイル)一覧→閲覧(画像・翻刻セット)という仕組みは、影印が欠かせない近世以前の書籍や、近代の自筆原稿などを出版する場合のスタンダードになっていくのではないでしょうか。乱歩・不木、ないしは『新青年』や探偵小説に特に関心がなくても、近代小説史の大きなうねり、メディア史の中での作家・編集者の動向が見えて興味をそそります。
 小林文庫オーナー ウェブサイト小林文庫主宰
 本邦探偵小説誕生の現場に立ち会う幸せ!  二十一世紀に、本邦探偵小説誕生の現場に立ち会うことのできる幸せ!乱歩、不木の探偵小説への情熱を受け継いでゆきたい、と思わずにはいられません。
 沢田安史 SRの会


願わくば、ほかの書簡も出てこないかなあ

 一読、日本の探偵小説の草創期に立ち会っているとおぼしき臨場感がある。乱歩と不木、ふたりの巨人が楽しそうに文通 していることに、八十年の時を隔てて眩暈すら覚えてしまう。さらには、本文と脚注のコラボレーション、ここに極まる。資料としても、読物としても言うことなし。願わくば、ほかの書簡も出てこないかなあ。

 島村 匠 作家


びっくり!

 値段を見てびっくりですが、増刷されたのにもびっくりです。腰巻の書簡引用部分はなんだかできすぎというか、こういう往復書簡だからこそ一冊にまとめる価値があるというアピールにぴたりですね。物書きにとっては、嘘でもこういうことを言ってくれる人がいてくれるかどうかは切実だったりします。

 新保博久 ミステリ評論家


本書を読んで魂を浄化す可し

 インターネツトの掲示板等で下卑た応酬をしてゐる輩は、須く本書を読んで魂を浄化す可し。

 千街晶之 ミステリー評論家


無類の臨場感を、多くの人に体験してほしい

 どんな宝石も、研磨した石をどのように加工するかによって、商品として成功作にも失敗作にもなる。『子不語の夢』は、乱歩と不木が互いに宛てた書簡という稀有な宝石を、見事に加工してみせた例で、編者の腕前をいくら称賛しても称賛しすぎるということはない。
 ここからは両作家の探偵小説に対する情熱が伝わってくるだけではない。書簡文面 の「建前」と、その裏に存在する「本音」を、名探偵さながらに絵解きしてみせる脚注のおかげで、両者の心理の襞から当時の探偵小説界のありようまでもが浮かび上がり、探偵小説の草創期にリアルタイムで立ち会ったかのような気分を読者に与える。この無類の臨場感を、多くの人に体験してほしい。

 高原英理 文芸評論家  アナベル・フィステ


文化事業の見本

 それにしてもここまで精密なご本とは、ひとつひとつ注を読むのが楽しくてしかたありません。むろんそれにとどまらず、これは明らかに歴史に残るものでありますし、文化事業とはこのような形で行われるべきであるという見本を見せていただいた気がいたします。

 竹本健治 作家


!!!

 この度はずれた膨大な脚注を見よ!!!

 田村七痴庵  『彷書月刊』編集長


相寄る魂の一冊

 世に文人作家は数あれど頭に大がつくのはただ二人。大谷崎と大乱歩である。その乱歩誕生に関わる本書は奇蹟のように生まれた乱歩不木の往復書簡集。ほぼ八十年前からの二人のやりとりの熱は不木逝去の昭和四年でおわる。それから七十五年、今次昭和の大戦をもくぐりぬ け、よくぞ散逸もせず二人の書簡は相寄る魂のごとく一冊となってここにある。その秘密の扉を開くことは、二人の生の声を聞くこと、ため息をも感じることができる。

 垂野創一郎 読者


『子不語の夢』とフリードリッヒ・フレクサ

 書簡から看取される乱歩・不木の人格的な大きさにも心を洗われるような気がするが、本書の読みどころはなんといっても下欄に記されたおびただしい脚注である。該博極まる知識を動員して丹念に(本当に丹念に!)書簡を読みほぐしていくその手際は、正直言って書簡そのものよりも何倍も面 白い。気配りの不木、老獪な雨村、天然な乱歩、あるいは国枝史郎との鞘当てめいた関係、あるいは岩田準一と仲がよすぎる乱歩に対する不木の嫉妬(?)などの人間関係の機微を、この脚注は次々と洗い出していく。(もっとも話が面 白すぎて「これは本当かいな」と首を傾げたくなるところもないではないが。)
 この脚注によってこの本は単なる書簡集ではなくて一級のドキュメンタリーと成り得ているのではないだろうか。つまり、突如出現した乱歩という不世出の天才を固唾を呑んで見守る不木ならびに周囲の人々のありさまを、まるで自分もその場に立ち会っているかのように生き生きと眼前に浮かばせる圧倒的な読後感は、脚注の力でなくてなんであろう。

*ウェブサイト プヒプヒ日記より抜粋

 津原泰水 小説家  aquapolis


読むと目が澄む

 とりわけ葉書の文が佳い。言葉を選んだ時間だけ、相手も繰り返し読んでくれるという、純真な信頼が美しい。血みどろの平成を生きる僕らでも、この書簡集を繙いたその日のうちは、澄んだ眼をしていられる。

 戸川安宣 編集者  東京創元社 TRICK+TRAP


沢山の書き込みをしてより完璧な版を

 近頃、これほどスリリングな読書体験は珍しい。ふたりのやりとりが、乱歩の習作発表からプロ作家へと転出する間の機微を克明に炙りだす。そして書簡は、その間、ふたりの関係に微妙な変化が生ずる様をも、赤裸々に暴きだす。この刊行が可能になったのも、乱歩の驚異的な自己収集癖に依るところ大である。この書簡のやりとりがつづくあいだ、乱歩はどれだけ転居を繰り返したことか。にもかかわらず、これだけのものが残されていたのは、まさに乱歩の面 目躍如たるものがある。これを翻刻した労力に、まず敬意を表したいが、綿密な脚注や索引製作等、その編集ぶりには目を瞠るものがある。殊に懇切丁寧な脚注には頭が下がるが、 Carolyne Wells の引用に訳を付けないなど、なかなか意地悪なところもある。初版には当然ながら誤植も散見されるが、みんなで気が付いたところを指摘し合い、より完璧な版を作るべきだろう。この初版には沢山の書き込みをして、三刷か四刷を保存用に購入したいと思っている。ともあれ、そんなことがあったか、と『探偵小説四十年』や『貼雑年譜』、『殺人論』や『犯罪文学研究』などを慌てて繙いた回数が、この書簡集を読む作業のスリリングさを如実に物語る。乱歩のお父さんが晩年、熊野修験にのめりこんでいたとは。研究テーマを一つもらったような気がした。

 中村有希 翻訳家


ただただ頭がさがります

 『子不語の夢』には圧倒されました。これだけの本を作るのに、どれほどの根気と努力が必要だったのかと思うとただただ頭がさがります。
 ま、病人と書いてマニアと読む人々(ほめ言葉です)にとっては、その労苦も喜びでしかなかったのかもしれませんが。

 濤岡寿子 ミステリ評論家


CD―ROMの鮮明な書簡画像もありがたい

 まずは、江戸川乱歩と小酒井不木という探偵小説の礎を担った作家の往復書簡の出版が実現したということが偉業だが、さらに多方面 に目配りをし、時に脱線しつつも周り巡って解説になるという脚注が秀逸だ。この脚注のおかげで本書は探偵小説の愛好家のものにとどまらず、読書者層を広げることに成功している。乱歩と不木のやり取りに、時にはツッコミを入れるような脚注は実に楽しく、これら脚注は無声映画に命を吹き込む弁士のようである。書簡の欄外で縦横無尽に注をつけつつ論を進めるスタイルは、書簡を事件の遺留品に仕立てた推理小説のようで、書簡、脚注ともに一気読みの面 白さだ。
 あくまでも乱歩の才能を引き立てようとする不木に事務的な返事しか書かぬ 後年の乱歩に、もうすぐ不木は死んじゃうのにそれはないだろうとはらはらしたり、耽綺社の会に行かずに岩田準一と旅行しているのはどうしたものか、でもこの旅行のおかげで『孤島の鬼』があるのだよなあ、とやきもきしたり、あるいは探偵小説の活性化の背景となった大阪、東京、名古屋のモダン都市化の違いを私は楽しんだが、読者の興味によって注釈も多様な働きをすることだろう。
 CD―ROMに収められた鮮明な書簡画像は、作家の筆跡を見られる喜びにとどまらず、全文検索機能によって、対応する文字、文章に当たることができ、くずし字に不案内な読者にはありがたい限り。翻刻のご苦労に感謝したい。自己に関する記録を丹念につけ続けた乱歩が、自分と不木の書簡にこれほどの検索機能をつけられたのを知るならば、目を細めて喜ぶに違いない。

 南陀楼綾繁 ライター・編集者  ナンダロウアヤシゲな日々


かゆいトコロに手が届く

 書簡を読み進むうちに、乱歩と不木の親交が葛藤に変わっていく。その過程をたどるのがとてもスリリングだった。さらに、「行き過ぎと思われるであろうほどの解釈や推定」にまで踏み込んだ脚注や、詳細な索引、気鋭の研究者による論考が、読書を盛り上げてくれた。封筒の画像まで入れ込んだCD―ROMにも驚嘆。使える資料集のお手本ともいえる本だ。
 自治体の事業でありながら、乱歩・不木を追いかけてきた在野の研究者やサイト主宰者に編纂を一任している徹底した「適材適所」も、この種の出版物では例がないだろう。
 まさに「かゆいトコロに手が届く」本なのだ。

 二階堂黎人 小説家


「恒星日誌」抄

2004.11.25 おお、まさかこんなものが! と、驚いたのが、『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』である。題名どおり、乱歩と、乱歩の恩師小酒井不木の手紙のやり取りだ。CD―ROMまで付いていて、パソコンにセットすると、往復書簡の内容が映像で見られるのだ。封筒の裏表まで画像として取り込んである凝りよう。それにしても、昔の人は、ずいぶん丁寧な手紙を書いたものだなあ、と、感心してしまう。
2004.11.25 ようやく『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』を熟読。乱歩と不木の往復書簡も意義深いけれど、脚注が素晴らしく学識に富んでいる。ここ数年の乱歩研究の中でも教えられるところが一番多かった本だ。《本格ミステリ大賞》の評論・研究部門で候補になるようなことがあったら、ぜひ一票を投じたい。

*ウェブサイト 二階堂黎人の黒犬黒猫館 「恒星日誌」より抜粋

 原田 裕 出版芸術社代表


よみがえる乱歩先生

 大変貴重な史料がギッシリつまっていてそれだけで興味深いのですが、同時に本書の構成法、綿密・膨大な脚注等大変なご労作であったと感服いたしております。  私も戦後の二十年代、三十年代には乱歩先生にはさまざまお世話になり、時には将棋のお相手をしたり、紅燈の巷へお供したりと、今思うと、遊んでいただいている合間に小説や随想を頂戴していた事に懐かしさを感じます。先生も、小酒井先生との交流をこんなかたちでまとめてくださる方が出現しようとは思いもよらなかったと思います。おそらく泉下で「よくこんな本作ってくれたな」とお喜びのことでありましょう。

 東 雅夫 怪奇幻想文学評論家、アンソロジスト


刊行されたこと自体が夢のような快挙本

 先に言及した『幻の猫』、あるいは『夜窓鬼談』などもそうだったが、今年は中小版元の心意気を感じさせるようなマニア感涙、いや号泣クラスの好企画が相次いだ。次に紹介する二点もその典型である。

『子不語の夢』 小酒井不木と江戸川乱歩―草創期の探偵小説界を先導した両巨人が、不木の急逝で突然の終止符を打つまでの七年間(大正十二年七月〜昭和四年四月)にわたり交わした往復書簡百五十余通 を初めて集成する一巻。ミステリー・ファンはもちろんのこと、広く、黄金期の怪奇幻想文学シーンに関心を寄せる向きにとっても必読の一級資料といえよう。いわゆる怪奇探偵小説の誕生に、フランスの猟奇作家モーリス・ルヴェルの作品が思いのほか大きな影響を及ぼしていたことを再認識させられたのをはじめとして、多くの発見があった。国枝史郎がらみで気になっていた「耽綺社」の実態についても、ナマナマしい記述が散見されて興趣は尽きない。周到な翻刻と解説類、電子資料の利点をフルに活かした附録のCD―ROMの魅力もさることながら、破格に愉快なのが、村上裕徳氏の手になる脚注の知的暴走ぶり。紙背の闇に蠢く人間模様を名探偵よろしく推理するかと思えば、小説よりも奇なる怪人物や怪しいスポットをめぐるトリビアに没頭する……ヘタな小説を凌駕する、これは一個の「作品」である。村上氏といえば、氏が中井英夫の助手を務めていた当時の回想を率直に記した「月蝕領・羽根木時代の思い出」(『『新青年』趣味』第11号掲載)を、『小説推理』の虚無特集編纂中、須永朝彦さんに教示されて、たいそう面 白く読んだばかり。なんでも氏は現在、映画『悪魔の手毬唄』のロケ現場にもなった山梨の某コミューンに食客として居住されている由、なかなかアッパレな当代の怪人ぶりではあるまいか。

*オンライン書店bk1「東雅夫の幻妖ブックブログ」より抜粋

 藤原義也 藤原編集室主宰  本棚の中の骸骨


探偵作家・江戸川乱歩誕生の歴史的瞬間を目撃する

 冒頭の数通を読んでいるうちになんだかドキドキしてきた。日本最初のプロ探偵作家・江戸川乱歩誕生の歴史的瞬間を実際に目撃したかのようなスリルを感じる。
 しかし、新進の有望作家と、それを引き立て励ます斯界の権威という二人の関係は少しずつ変化していく。やがて創作に行き詰まりを感じた乱歩は休筆を宣言。心配した不木はなんとか筆を執らせようと画策するが、過大な期待を重荷に感じた乱歩は距離を置き始める。そのすれ違いにはらはらしたり、思わずしんみりしたり。乱歩という巨大な星を核として形成されていく探偵文壇のドキュメントとしても貴重な資料。新しいジャンルが生まれるときの昂揚と、開拓者の苦闘の跡が154通 の手紙に刻み込まれている。

*『SPA!』二〇〇四年十二月七日号より抜粋

 三浦しをん 作家  Boiled Eggs Online


不木先生、なんだかせつないです!

 情熱あふれる脚注によって、乱歩と不木の姿が、書簡からより一層リアルに立ちのぼってくるようでした。不木先生、なんだかせつないです! でもそれは、幸福なせつなさでもあると思いました。

 森 真沙子 作家


熱い想いが伝わってくる

 作品と苦闘する乱歩の超人的なストイックぶり、それを献身的に励まし続ける不木の好漢ぶり。二人の間に交わされる真摯な肉声から、探偵小説黎明期の、熱い想いが伝わってきます。乱歩を読み直したくなりました。

 山田正紀 作家


近作に刺激

 小酒井不木があんな若さで亡くなったとは知りませんでした。何とはなしに老大家という印象があったものですから……。いま江戸川乱歩をテーマの一つにしたミステリーを書いています。いろいろと刺激されます。

 山前 譲 推理小説研究家


字間行間の暗号解読

 江戸川乱歩が暗号好きであったのは周知の通りである。その乱歩と不木の往復書簡は、ふたつの意味でまさに暗号と言えるだろう。ひとつに読み下すこと。さらにひとつ、字間行間に含まれた意味を拾い出すこと。さて、どこまで暗号解読ができたのか。この書簡集でじっくり確認していただきたい。

 書評・新聞による紹介記事


●「乱歩はこうして誕生した/探偵小説の息吹、活写/小酒井不木との往復書簡集刊行」『読売新聞』二〇〇四年十一月七日

●「乱歩の新たな作家像浮かび上がる 江戸川乱歩、小酒井不木往復書簡集刊行」伊賀タウン情報『YOU』二〇〇四年十一月八日号

●「名張出身、江戸川乱歩の出世過程示す/交友作家との往復書簡集発刊」『中日新聞』三重版、二〇〇四年十一月十日

●「乱歩の往復書簡集発刊/探偵小説家への決意記す/乱歩蔵びらき委 小酒井不木との交友収録」『朝日新聞』伊賀版、二〇〇四年十一月十四日

●清水信『中日新聞』二〇〇四年十二月二一日

●本多正一「乱歩のはじまり、ミステリーのはじまり」『彷書月刊』二〇〇五年一月号

●本多正一「『子不語の夢』書評」『文藝』二〇〇五年春季号 【予定】

●高原英理「評判記」『読売新聞』二〇〇五年一月十九日

 

 スタッフ敬白 
 小松史生子 (乱歩書簡翻刻担当)


字は情を表す

 「字は体を表す」―とはよく聞く言葉ですが、このたび乱歩書簡の翻刻を行った過程を振り返りますと、「字は情を表す」とでも言い換えたくなってまいります。『子不語の夢』に収められた書簡が書かれた年代は、大正十一年から昭和四年という、乱歩にとっては激動の時代でした。専門作家デビューを決意するか否か、本格探偵小説と変格探偵小説の論争、そして深刻なスランプによるあてどもない逃避行の旅。三十歳という分別 をわきまえるべき年齢を迎えた頃に、平井太郎という一人の青年を次々と見舞った人生のメルクマールの波。
 常に二者択一を迫られていたような書簡の文字からは、〈江戸川乱歩〉という一つの才能が誕生するまでに、人生の分岐点を目の前にした青年が味わった苦闘が、その勢いづいた少し乱れがちの筆跡から、生々しい情感をもって浮かび上がってきたのです。

 阿部 崇 (不木書簡翻刻担当)  奈落の井戸:小酒井不木研究サイト


小酒井不木ブックガイド

 『子不語の夢』で小酒井不木の人柄にしびれたら、次は作品を読んでみましょう。今、書店で入手することができる小酒井不木の著作より、必携の三冊をご紹介します。

■あなたと不木の相性診断 46『小酒井不木集 恋愛曲線』 
 小説家・小酒井不木との相性を確かめたいなら先ずはこれを。小酒井不木が持ち味を遺憾なく発揮した短篇ばかりをセレクトした、まさにベスト版と呼べる一冊。感情による心臓の拍動の変化をグラフ化する、というSF的テーマの表題作「恋愛曲線」、医者の誤診が招く悲劇や犯罪を描いた「手術」「痴人の復讐」、砒素を使った毒殺を企む犯人が落ちた陥穽を論理的に指摘する〈本格ミステリ〉の傑作「愚人の毒」など、医学方面 からのアイディアを駆使した切れ味鋭い短篇はこの作家の独壇場です。

■子供の頃に出逢いたかった? 今からだって遅くない! 47『小酒井不木探偵小説選』
 謎と推理と冒険―子供たちの心を引きつけて止まないジュヴナイルの魅力。その源流は江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズよりも遥か昔に遡る、これは周知の事実。ではその源流をたどる旅の途中にこれほどの名水が湧き出ていたことはご存じだったでしょうか。作品に盛られた最新の科学知識と子供相手でも手を抜かない、しっかりと考えられた謎解き、まとまったプロットとわかりやすさ第一の文章はジュヴナイルかくあるべし、というお手本。読めばそのレベルの高さに驚かされること請け合いの一冊です。

■芸達者・小酒井不木を解剖せよ 44『人工心臓』
 小説家としてだけでなく、随筆家・評論家としても小酒井不木を評価すべく意識された作品集。傑作選的セレクトの小説数編のほか、江戸川乱歩、国枝史郎ら同時代作家についての評論、ポオ、ルヴェルといった外国作家に関する随筆、海外の犯罪実話などが収められ、多方面 で文才を発揮する小酒井不木の姿を浮かび上がらせます。

小酒井不木主要著書目録    作成・阿部 崇

 生命神秘論(大正四年六月・洛陽堂)
 学者気質(大正十年十二月・洛陽堂)
 犯罪と探偵(大正十二年六月・博文館)
 西洋医談(大正十三年七月・克誠堂書店)
 科学探偵(大正十三年八月・春陽堂)
 殺人論(大正十三年九月・京文社)
 三面座談(大正十四年三月・京文社)
 近代犯罪研究(大正十四年五月・春陽堂)
 趣味の探偵談(大正十四年十一月・黎明社)
10 死の接吻〈探偵名作叢書第一集〉(大正十五年五月・聚英閣)
11 学者気質(大正十五年六月・春陽堂)
12 闘病術(大正十五年八月・春陽堂)
13 恋愛曲線〈創作探偵小説集五〉(大正十五年十一月・春陽堂)
14 少年科学探偵〈不木少年科学探偵集 第一編〉(大正十五年十二月・文苑閣)
15 犯罪文学研究(大正十五年十二月・春陽堂)
16 慢性病治療術(昭和二年三月・日本心霊学会)
17 稀有の犯罪(昭和二年六月・大日本雄弁会)
18 疑問の黒枠〈世界探偵文芸叢書第七編〉(昭和二年七月・波屋書房)
19 不木探偵談〈探偵趣味叢書五〉(昭和二年八月・サンデーニュース社) ※春陽堂より発行された異装本あり
20 闘病問答(昭和二年八月・春陽堂)
21 現代大衆文学全集第七巻(昭和三年三月・平凡社) ※昭和二十一年に児童向け作品だけを抜粋して再刊
22 慢性病治療術(昭和三年五月・人文書院)
23 タナトプシス(昭和三年六月・内観社)
24 医談女談(昭和三年十月・人文書院)
25 小酒井不木全集(全17巻、昭和四年五月〜昭和五年十月・改造社)
26 生命神秘論(昭和四年六月・富士書房)
27 小酒井不木傑作選集〈新青年叢書三〉(昭和四年六月・博文館)
28 不木句集(昭和四年・私家版)
29 小酒井不木集〈探偵小説全集二〉(昭和四年十月・春陽堂)
30 小酒井不木集〈日本探偵小説全集第一篇〉(昭和五年三月・改造社)
31 少年科学探偵集〈少年冒険小説全集第三巻〉(昭和五年六月・平凡社
32 恋愛曲線〈日本小説文庫二一九〉(昭和七年十二月・春陽堂書店)
33 疑問の黒枠〈日本小説文庫二二〇〉(昭和七年十二月・春陽堂書店)
34 少年科学探偵〈少年文庫一五二〉(昭和七年十二月・春陽堂書店)
35 闘争(昭和十年十月・春秋社)
36 展望塔の死美人〈日本小説文庫四一六〉(昭和十一年十月・春陽堂書店)
37 大雷雨夜の殺人〈日本小説文庫四一五〉(昭和十一年十一月・春陽堂書店)※平成七年に別 装幀・解説付きで再刊
38 疑問の黒枠〈探偵小説傑作集三〉(昭和二十一年十二月・三佯社)
39 死の接吻〈探偵小説傑作集五〉(昭和二十二年四月・三佯社)
40 紅色ダイヤ(昭和二十三年六月・世界社)
41 犯罪文学研究(平成三年九月・国書刊行会
42 殺人論(平成三年十月・国書刊行会)
43 小酒井不木〈叢書新青年〉(平成六年四月・博文館新社
44 人工心臓〈探偵クラブ〉(平成六年九月・国書刊行会)
45 恋愛曲線 復刻版(平成十一年七月・春陽堂書店
46 小酒井不木集 恋愛曲線〈怪奇探偵小説名作選一〉(平成十四年二月・筑摩書房
47 小酒井不木探偵小説選〈論創ミステリ叢書八〉(平成十六年七月・論創社)

 

 村上裕徳 (脚注担当)


脚注執筆日記抄 

二〇〇四年八月二日 毎日毎日、『探偵小説四十年』をひっくり返し、あっちこっちを何度も何度も読み返し、そうか、やっぱし乱歩はそういう人だったのか。と、ひとりでうなずいているのですが、その「そういう人」や「やっぱし」がアタマの中ではわかっているのに、言葉にすると、中々説明できない人なんですねえ、これが……。しかし、乱歩っちゅう人は、作品も凄いけど、はるかにはるかに人物の方が巨大な人で、おそらく作品の十倍くらい人間は偉大だった気がしますです。ハイ。戦前だと「陰獣」など、ほとんどの探偵作家負けちゃうわけです。もう、かなわんわけです。戦前なら、横正でさえ、勝てんのです。しかし、「ドグラ・マグラ」や「黒死館」なんかの無差別 級のんをブツケラレルと、乱歩っちゅう人は大変文章書きとしては理性的優等生のために、やっぱり巨大さでは、かなわんのです。乱歩は、がっちり固められた、ほんまもんの長編小説が書けんのです。「千枚の巨編、江戸川乱歩氏の最新作!!」「遂に! 遂に!!待望の、江戸川乱歩、起つ!!! 前後篇 千五百枚の大型巨編」ちゅうのが書けんのです。横正の戦後のやつなら、「八つ墓」とか「獄門島」とか「本陣」なんかをぶつけられると、正史はそうは思ってないでしょうけど、読者としては、ボリュームや迫力や、小説世界のスキマの持ってる「ゆとり」の部分で、乱歩負けちゃうんです。そんなんに勝ったんは乱歩のばあい、正・続の「幻影城」ちゅう乱歩の妄想の「お城」だけなんですね。小説が書けん乱歩が、書けん妄想のすべてをブチコンダ、あの評論集しか夢野や小栗に勝てんのです。しかし、です。書けん乱歩の妄想ちゅうのんが、いかに巨大やったんかっちゅうのんが、よう、読んどったら、見えてくる。紙背におる乱歩ちゅうオヒトが見えてくんです。そこが偉大なトコなんですねえ。

二〇〇四年八月十一日 起きてすぐ書いてます。ラストのフィナーレは、考え付きました。使えるかなーと思っとったんがあったんですが、そのため伏線もバラまいとったんですが、何とかイケそうです。驚天動地の意外な犯人です。大どんでん返しになるはずです。小酒井不木殺人事件です。史実的に知ってる人も、仰天する意外な犯人です。×××が×××だったのです。×××が不木をイテモウタから正史はアレが書けたんです

 末永昭二 (索引担当)


『子不語の夢』を起点として

 ミステリというジャンルに深入りすると、分類や研究がしたくなるものらしい。実作者もアマチュア読者も、ときに評論家・研究家となり、多くの成果 を発表してきた。しかし、生の資料には一部の「関係者」だけしか触れることを許されず、アマチュアは公刊された「作品」(『探偵小説四十年』などの自伝的作品も含む)を基にするしかなかった。
  が、『子不語の夢』によって、探偵小説黎明期の生の記録にだれでも触れられるようになった。本書のテキストとCD―ROMの画像を手に入れれば、だれでも、少なくともわれわれ編集・制作スタッフとほぼ同じ地平に立つことができる。その意味は大きい。
 もちろん、われわれは読者に対して最善の水先案内人であるよう、さまざまな配慮をし、ある読み方を提示しているが、それは一つの「可能性」にすぎない。読者は本書を起点として、自由に作品と書簡の記述との関連を調査し、肉筆の行間を探って、新しい読み方を発見することができる。乱歩と不木の関係だけではない。国枝史郎や長谷川伸から探偵文壇をもう一度見直してみるなど、興味深いテーマがいくらでも見つかるだろう。
 同様にわれわれも新しい読み方を模索する。初版と第二版とは、誤植などの訂正だけでなく、一部の内容が差し替えられている。いつか第三版が発行されることになれば、きっと新たな解釈が加えられるだろう。しかし、第三版を待つのではなく、より迅速に読者に新情報を提供するために、皓星社が自社サイト内に『子不語の夢』をアップデートするページを設けている。
 探偵小説研究の第一級資料の、現在実現できる最良の形態での公刊だと自負しているが、それだけでなく、探偵小説黎明期の熱気と、二人の作家の微妙な心の綾を描いた一級の青春ドキュメンタリーとして読めることはもちろんであり、そのことが改めて乱歩と不木の「大きさ」を感じさせてくれるはずだ。

編集後記
年末年始の慌しい折にもかかわらず、多くの皆様から書き下ろし原稿や転載のご許可をいただきました。お力添えいただいた皆様に心より感謝申し上げます。 お楽しみいただけましたら幸いです。(佐藤健太)

  
『子不語の夢』に捧げる
2005年1月16日 発行(非売品)
発行 株式会社 皓星社
編集長 佐藤健太
副編集長 本多正一
子不語の夢―江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集
 
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