2001.5.25  No24
■■■■■■■■■■■ 皓星社通信 ■■■■■■■■■■■■
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◆◆ 皓┃星┃社┃通┃信┃          ◇2001年5月25日号  No24◇
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☆☆ 国側控訴断念! ハンセン病国賠訴訟特集号 ☆☆
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                                    発行所 株式会社 皓星社
                  編集長    川尻 絵馬
                166-0004東京都杉並区阿佐谷南1-14-5
              TEL03-5306-2088    FAX03-5306-4125
                   info@libro-koseisha.co.jp
               http://www.libro-koseisha.co.jp
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【目 次】
1.祝! 控訴断念 特別寄稿
       ハンセン病国賠訴訟原告代表団事務局長 国本 衛

2.ハンセン病とともに(9)             谺 雄二

3.ハンセン病関連ニュース
   ・NHK教育テレビで2夜連続放送
   ・ジュンク堂鹿児島店でブックフェア開催!
   
◎編集後記
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【祝! 控訴断念 特別寄稿】
       ハンセン病国賠訴訟原告代表団事務局長 国本 衛

  控訴断念の報に接して、自分の耳を疑った。この日、各新聞の夕
刊はみな「控訴決まる」の報道を流していたからだ。

 首相との会見を終え、集合場所の弁護士会館に遅れて到着したのは
午後6時すぎ。
「控訴断念が決まりました」
という弁護団の報告の声が私の耳に飛び込んできた。思わず、じん
じんと胸に湧くものがあった。これでようやく、私の人生が蘇った
のだ。しかもそれは60年ぶりの蘇りなのだ。14歳のときに社会から
隔離され、いま74歳。遅かった、あまりにも遅かった人間復帰なの
だ。

 2001年5月23日、歴史的な瞬間を迎えた。原告代表団の事務局長
として、午後4時より10分間の予定で首相と会談することができた。
 首相は一人ひとりと固く握手した。
 原告たちがそれぞれに被害の実態を述べたとき、目を潤ませ、涙
がにじむのを見た。

私は別の角度から、

「総理に期待と希望を持って今日会いにきました。熊本の判決は、
国民誰もが納得のできる判決でした。その後の政府の対応を全国民
が注目しております。今、小泉内閣は支持率80%。その期待を裏
切らないよう願います。どうか国民に背を向けるようなことはしな
いでください。控訴になれば、国民への背信行為ともなりますし、
これからも人権侵害を重ねることになります。どうか、私たちの名
誉と誇りを回復させてください」

大要以上のように述べた。会談は予定時間をはるかに越え、40分を
経過した。

 総理は、

「みなさまがたの要請を真剣に受け止めております。私はまだ結論
を出しておりません。そういうなかで、みなさんの声を聞かせてい
ただき、感謝しております。これまでのハンセン病に対する国の施
策につきましては、心から反省しなければなりません。今日はみな
さまのお話を参考にしながら適切な判断をしたいと思います」

そういって、別れ際また一人ひとりに固い握手を求められた。それ
は歴史的な感動の握手だった。あの握手こそ、ハンセン病患者への
未来を約束した握手だったのだ。
わたしたちの訴えが、総理の最後の決断を促したと信じている。


☆ ニュース番組でご覧になった方も多いとは思いますが……。
原告団の一番右端が国本さんです。真ん中のベレー帽の方が「皓星
社通信」でおなじみ谺雄二さん。
http://www.asahi.com/politics/update/0523/012.html
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ハンセン病とともに(9)              谺 雄二

 4月5日、私は参院議員会館にいた。午前11時から同所で開催
される超党派による「ハンセン病問題の最終解決を進める国会議員
懇談会」の設立総会に、ハンセン病国賠訴訟の原告の一人として出
席するよう要請されたからである。

 栗生楽泉園原告団からは副団長の鈴木幸次氏が同行。体の不自由
な私たち二人にこの日も群馬支援する会の中野夫妻が介助の労をと
ってくださり、夫妻に付き添われて到着した同会館ロビーには、遠
く鹿児島や香川の療養所より駆けつけた原告の姿もすでにあった。
またこの裁判に全力を投じていただいている西日本・東日本・瀬戸
内各弁護団を代表される先生方も続々と見え、しだいに緊張感の高
まりを覚えるのだった。

 総会は定刻どおりに開かれ、会長に江田五月(民主党)、顧問に
野中広務(自民党)・管直人(民主党)・白保台一(公明党)・藤
井裕久(自由党)・市田忠義(日本共産党)・渕上貞雄(社民党)
野田毅(保守党)の各議員を選出。
 また副会長には熊代昭彦(自民党)・金田誠一(民主党)・福本
潤一(公明党)・武山百合子(自由党)・瀬古由起子(日本共産党)
中川智子(社民党)・二階俊博(保守党)の各議員、そして事務局
長に川内博史議員(民主党)が選出されたのである。なおこの懇談
会に加盟の議員数は当日の時点で101名。(その後130名を越
えたと聞いている。)

 私たちの側からは全療協の神美知宏事務局長、曽我野一美原告代
表、徳田靖之西日本弁護団長がそれぞれ挨拶に立ったが、その『趣
意書』に、
  (1)ハンセン病問題の最終解決
   (2)ハンセン病裁判の原告・弁護団を側面から援助
   (3)「らい予防法」など国会自身の責任の検証
等をうたったこの超党派議員懇談会の設立に、だれもが感激ひとし
おの思いだった。同時に私たちの裁判闘争がこれまでに至らしめた
のだという実感を、あらためて強く噛みしめたのだった。

 次いで4月14日、私たち全国の各原告団代表は福岡での会議に
おいて、熱い討議の末ついに全国組織「ハンセン病違憲国賠訴訟全
国原告団協議会(全原協)」を結成、そして会長・会長代理・副会
長・事務局長等の役員を選出し発足した。因みに私は会長と任務を
分担しあう会長代理を務めることとなった。

 こうして来る5月11日の熊本裁判を目前に、この裁判の全面解
決を勝ちとる態勢は、いわば万全を期すかたちで整ったのである。
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【ハンセン病関連ニュース】

●NHK教育テレビでは以下の番組を放送予定。

「ETV2001 ハンセン病患者はなぜ隔離されたのか」 
  前編5月30日(水)
  後編5月31日(木) 
NHK教育テレビ 午後10:00〜10:45 


・前編 「隔離政策はこうして続けられた」 

「ハンセン病」は不治ではなく、患者から感染し発病することもま
れである。戦後は特効薬ができて治療が格段に進歩し、いま施設に
暮らす人はほぼ100%完治している。世界で患者の開放と一般病
院での外来治療が推進される中、なぜ日本だけが根拠のない隔離政
策を継続したのか。 
 今回発見されたひとつのメモがある。1946年6月に厚生省で開か
れた「全国所長会議」の内容を記したメモである。厚生省の局長が
「治る」ことを前提に政策の転換を提案するが、長島愛生園の光田
健輔園長から強行に反対され、戦前と同じ強制収容を継続すること
が会議の中で決まっていく。光田をはじめとするハンセン病医学の
専門家たちは、戦後もハンセン病を「撲滅する」ことは正しいこと
だという確信を持ちつづけ、そのための手段は隔離しかないと認識
していた。GHQも厚生省もそれを黙認し、ハンセン病の隔離は継
続した。しかしその政策を支持したのは、この病気に対する恐怖心
を植え付けられた「世間の人々」だった。「患者を放置することは
世間が許さないだろう」ある園長の発言が重くのしかかる。新たに
制定された「らい予防法」のもとで人々の間違った認識は是正され
ることなく開放を求める患者たちの声も無視され続けた。 

・後編 「隔離された人々の苦悩」 

 裁判をきっかけに、かつてハンセン病を病んだ元患者たちが語り
始めた。その証言はひとりひとり壮絶を極める体験の吐露であった。
彼らは家族や故郷との永遠の別れを強いられたばかりではなく、子
供を持つことを禁止され断種や堕胎を強制された。劣等感を植え付
けられ人間としての存在を否定されたかれらの苦悩はいまだ理解さ
れていない。社会に残る差別や偏見は法の廃止後も変わらず、社会
復帰が不可能な現実の中で彼らはいまも「隔離」の中にいる。人生
の最期に自由を求め80歳をすぎて社会へ出た人、施設に死ぬまでと
どまる決意をした人、それぞれの選択の中でいまを生きる元ハンセ
ン病患者の姿を描く。

●ブックフェア「ハンセン病政策を問う」開催!

 県内に2つの療養所がある鹿児島のジュンク堂書店さんで6月上
旬からハンセン病関係書籍を集めたブックフェアが開催されます。
各社から出版されたハンセン病書籍が一堂に会するまたとない機会。
もちろん、皓星社の本も並べていただく予定です。お近くの方はぜ
ひ行ってみてください。

ジュンク堂書店鹿児島店(2階)
鹿児島市中町3−15 ヴィストラルビル
TEL 099-239-1221
FAX 099-239-1220
http://www.junkudo.co.jp/index.jsp?

 また、神戸市のジュンク堂書店三宮店様でも、近々「皓星社ブッ
クレット」を手にとってご覧いただけるようになります。こちらも
よろしく!

ジュンク堂書店三宮店
神戸市中央区三宮町1−6−18 三宮センター街
TEL 078-392-1001
FAX 078-392-1024
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◎ ハンセン病国賠訴訟については皓星社ブックレットをどうぞ。
http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/top03.html
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【編集後記】
●わたしは、小泉内閣は発足一ヶ月未満ですでに大きな成果をあげ
たと思っている。それは、この内閣の姿勢が、如何にこの国が官僚
支配に雁字搦めにされているかを白日のもとに炙り出したことであ
る。その第一章は田中眞紀子外相があっという間に外務官僚に牙を
抜かれたこと。そして第2章は、このハンセン病問題だった。判決直
後から法務、厚生労働官僚は控訴に向けてのシナリオを書き、関係
方面のレクチャアーに走り回った。大臣である坂口氏が控訴反対の
立場をとってい、与党内部にさえ控訴断念の声が高かったのに、で
ある。新聞報道によれば、官僚の中に「事務方の判断が政治判断で
覆った例は聞いたことがない」という声さえあったという。これは
逆に驚きである。政治が機能しないということではないか。
 したがってここで、控訴ということになれば、小泉内閣の改革も
何が「血みどろの改革」(就任時の言葉)だ、ただの官僚支配の枠
内の改革に過ぎないじゃあないか、ということになる所だった。
 しかし、小泉氏は国を被告とする裁判の原告と面会し、直接にそ
の話を聞き涙して、控訴しないことを決めた。甘いといわれようと、
初めて、血の通った政治家の姿を見た気がした。小泉氏と坂口氏の
涙を尊いものに思い、この件に関しては率直に評価したいと思う。
 もう一人の、「血の通った政治家」田中さんも、このままで終わ
るんじゃあないでしょうね。(F)

☆ ご意見、ご感想をお寄せください。投稿もお待ちしています。
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                        2001.5.25 No24