2000.09.28 No6
■■■■■■■■■■■■ 皓星社通信 ■■■■■■■■■■■■
     
◇◆◆◇「皓星社通信」◇◆◆◇2000年9月28日号No6◇◆◆◇
==============================================================
隔週刊行(頻繁に増刊の予定)

                                     発行所 株式会社 皓星社
                   編集長 森田華子
                 166-0004東京都杉並区阿佐谷南1-14-5
              TEL03-5306-2088    FAX03-5306-4125
                   info@libro-koseisha.co.jp
【等幅フォント推奨】      http://www.libro-koseisha.co.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【目 次】
1.皓星社から
  ●データベースに「憲政編」「企業家編」をアップ     
  ●【新刊情報】『激増する過労自殺―彼らはなぜ死んだか』
2.小説 警報                    村松孝明
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.皓星社から
==============================================================
●データベースに「憲政編」「企業家編」をアップ 
『日本人物情報大系』の「憲政編」「企業家編」の被伝記者索引を
アップしました。
http://www.libro-koseisha.co.jp/top01/top01.html#data_jin

 これですでにアップされている「女性編」「満洲編」と合わせて、
近代日本人20万人以上の伝記情報が検索できることになります。
 冊子体の『日本人物情報体系』も、「学芸家編2」を刊行。(この
詳細は次号でお知らせします)
 ぜひ、ご活用ください。
==============================================================
●【新刊情報】『激増する過労自殺―彼らはなぜ死んだか』
         編者 ストレス疾患労災研究会
          過労死弁護団全国連絡会議
             四六判・並製・340頁 定価1,800円+税
 http://www.libro-koseisha.co.jp/top03/rb1134.html
 
 あの電通・大嶋うつ病事件をはじめ数々の悲惨な事例を裁判記録と
家族の訴えを交えながら追求するドキュメント。過労の挙句、精神障
害を発症して生きる希望を失い、自らの生命を断つほどまでに追いつ
めた労働とは何だったのか。
 再発防止のため、遺族の協力の下、事業所と被害者の実名を明らか
にして真実を追究する。

【目 次】

第1部
■大手広告代理店青年社員の自殺
 電通・大嶋うつ病自殺事件
■海外出張中の新入社員の自殺
 神戸製鋼所・山川短期反応精神病自殺事件
■大手製鉄会社中間管理職の自殺
 川崎製鉄水島製鉄所・渡邉うつ病自殺事件
■ソース製造会社青年社員の自殺
 オタフクソース・木谷うつ病自殺事件
■大手ゼネコン青年労働者の自殺
 飛島建設・永山心因性精神障害自殺事件
■市役所観光係長の死
 下田市役所・疲弊うつ病自殺事件
■プレス工場管理職の自殺 
 サンコー堀金工場・飯島反応性うつ病自殺事件
■造船所設計技術者の自殺
 日立造船舞鶴工場・下中うつ病自殺事件
■無認可保育所保母の自殺
 東加古川保育園・岡村うつ病自殺事件

第2部
■労働者の自殺を生み出す社会的背景
 労働者の自殺の労働経済学的考察
■精神障害・自殺の成因とその診断・治療
 精神障害・自殺の精神医学的考察
■労働者の精神障害・自殺と労災補償・損害賠償
 精神障害・自殺の法律学的考察

==============================================================
この話題についてのご意見ご感想、情報をぜひ掲示板に!
http://www.libro-koseisha.co.jp/top09/top09.html
==============================================================
【過労自殺を考えるリンク】

「過労死110番」 全国ネットワーク
http://www.bekkoame.ne.jp/i/karoshi/

働くもののいのちと健康を守る全国センター
http://www2.odn.ne.jp/%7Eaab75710/index.html

労務安全情報センター
http://www.campus.ne.jp/%7Elabor/index.html

日本労働弁護団
http://homepage1.nifty.com/rouben/top.htm

大阪過労死問題連絡会
http://homepage2.nifty.com/karousirenrakukai/index.htm

過労自殺 広がる認定/明確になった企業責任、求められる予防策
http://www.jcp.or.jp/akahata/20007/0711/2000711_karou_jisatu.html

電通 事件最高裁判決
http://homepage2.nifty.com/karousirenrakukai/HANREI.DENTU.htm

木谷君の会
http://www.hiroshima-cdas.or.jp/kenroren/kitani/kitani.htm

無認可保育所保母過労自殺事件
http://www.winwin.ne.jp/%7Emochi/makiko.HTML

【過労自殺をしないために】
 
ようこそうつ鬱友の会へ!!
「休職のススメ」と「うつ鬱友の会」への入り口
http://runo.virtualave.net/index.htm

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2.小説 警報                    村松孝明

 村松孝明さんは郵政の現場の労働者である。その労働現場からの作
品。この小説は、小社を発行所にして、刊行されている「千年紀文学」
の28号に掲載されたもの。新刊の『激増する過労自殺』にも関連す
るものとして、同誌のご好意で再録させていただいた。村松さんの作
品集『笑う男』(彩流社http://www.sairyuusha.co.jp/)は、郵政現
場の実態を、ユーモアと風刺を交えて描き注目された。
==============================================================
警 報

 昼飯の時、牛乳二本と缶入りのお茶一本、いずれも冷たいのを飲ん
だ。午前の配達が終わって帰局すると、汗で事務服が透けていた。ラ
ンニングシャツを脱いで雑巾のように絞ると、ぽたぽた汗が落ちた。
腕には白い模様が浮き出て、舐めると明らかに塩だ。水分の補給を牛
乳とお茶でして、洗濯済みの事務服とシャツに着替え、午後の配達に
出たのだが、たちまち汗が吹き出してきた。
 ヘルメットに直射日光が当たりどんどん気温が上昇する。赤いバイ
クで風を切るから涼しそうだが、道路やビルのコンクリートの反射熱
や、冷房装置から吹き付ける温風や、自動車の排気ガスで、気温は十
分に上昇している。重い郵便物を積んだバイクもふらふら、異常な暑
さで頭もふらふらだ。信号待ちで止まっていると、年配の女性が声を
かけた。
「郵便屋さん、山田タミさんのうちはどこでしょうか」
「知りません」
 俺は素っ気なく答えた。
「郵便屋さんが知らないでどう配達するのかね」
「正確に住所が書いてあれば日本中どこでも届きますよ」
「二十年前は、親切に山田さんの家まで連れて行ってくれたのに。あ
の時の郵便屋さんは親切で男前の……」
 醜男で悪かったね。こんな暑い日は出歩かないで、家で寝てればい
いんだ。化粧が斑に落ちて醜すぎる。しかし、信号が変わったので何
も言わずに、そのまま走り出した。婆さん、昔のように余裕がないん
だよ。郵便が一日ぐらい遅れても気にしない時代と違うんだ。誰がそ
んな時代をつくったんだ。婆さんもその一人じゃないのか。俺の配達
区だったら大概のことは知っている。どこの娘は結婚して家を出た。
誰さんは別居中。何さんは最近離婚した。何さんはそろそろ自己破産。
どこそこの婆さんはそろそろお迎えが来そうだ。しかしここは俺の知
らない地域だ。知っていたとしても教えてやっている暇などないんだ
よ。二十年前に婆さんが会った男前で親切ないい男は、この俺でもあ
るんだよ。
 走っているバイクの前にボールが転がって来た。それを追って子供
が飛び出して来た。俺は避けて通り過ぎた。関わっている暇がない。
昔は良く遊んだものだ。転がったボールを追いかけて来たら、まず怒
鳴りつけた。急に飛び出すなと真剣に怒ったものだ。それから自転車
を止めてキャッチボールをやる。五分や十分投げ合って一汗かいて、
また、配達に向かう。次に通り掛かった時は、子供たちは俺の顔を覚
えていて、急に飛び出したら郵便屋さんに怒られるぞと近付いて来る。
またやるか、言えば、仲間に入れてやるよと餓鬼大将が言い、一汗流
してから配達に向かう。二三回やれば、もう子供たちとは旧知の遊び
仲間だ。
 ところが今それをやると、郵便屋が遊んでいたと通報され、ちょっ
と配達が遅れただけで苦情になる。子供たちに声をかけただけでも警
察に通報されかねない。知らない人に声をかけられたら逃げて来いと、
学校でも家庭でも耳にタコが出来るほど言われている。しかし、それ
が回り回って、バットで殴り殺されたり、ナイフで刺されたりしてい
ることに、大概の大人たちは気付いていない。
 刑罰が軽いから学校教育が悪いからだと右往左往して、少年法や教
育基本法を変えようとしている。まったく滑稽な話だ。十八歳になっ
たら一年間、強制的なボランティアなんて、徴兵制と同じではないか。
いづれ徴兵制に移行しようという魂胆かも知れない。そんな事よりも、
サービス残業などを取り締まった方が早い。世界の共通語となったカ
ローシと言う汚名を払拭するためにもだ。サービス残業をさせた事業
所は、一件につき百万円の罰金刑とする。またその管理者は実刑に処
す。そうすれば、リストラどころか雇用が拡大して失業者が減り、将
来への不安も薄れて購買力も伸びる。消費税をいつ上げるか、どこか
ら絞り取ろうかと頭をひねならくても自然と税収が伸びる。サービス
残業が無くなれば、親子で夕飯を食え、本来の家庭が復活する。
 ついでに言えば職場にもゆとりの時間を一日三十分でも取り入れた
いものだ。その時間はまさにボランティア。道に迷った痴呆症の老婆
を、家まで送り届けたり、病気で寝込んでいる一人暮らしの老人に買
い物をしてやったり、少年のキャッチボールの相手をしたり、そんな
ゆとりが、どんなにこの世を豊かにするか。何か起こるたびに、幼年
期から机にしがみついて来た官僚たちが、机上のプランを立てて押し
付けて来る。そのたびに空気が薄くなっていくことに気付いていない。
 半分ほど配達をした。暑さで頭がふらふらしている。目もチカチカ
する。俺は元々汗っかきだが、事務服が汗で肌が透けて見えるほどだ。
喉が渇きヒリヒリ痛む。水分を補充しなければ、大変な事になる。こ
のままでは明日の新聞に載るかも知れない。郵便屋さん配達途中、熱
射病で倒れ意識不明になったところを、何者かが書留郵便物等およそ
三十通を持ち逃げする。その中には現金や郵便小為替など約百万円相
当が含まれていた。盗まれたお前が悪い弁償しろとなるのは目に見え
ている。倒れるまで働いて労働者の神様のような人だから、給料を上
げてやろうなんて話にはならない。一度に弁償出来なければ毎月給料
から引いてやるというご親切な話になるのがオチだ。
 俺は児童公園にバイクを止めて、自動販売機で手に入れた冷たいお
茶で水分補給をする。真夏の炎天下は、さすが子連れのヤンママたち
はいない。人っ子一人いないと思ったら、公園の隣の民家のコンクリ
ートの壁にボールを当てている少年がいた。少年の背中は汗で濡れて
いる。軸足を壁と平行に置いて、反対の足を高々と上げて体と腕を弓
のようにしならせて降り下ろす。かなりスピードが出ている。あの家
にはこの時間は誰もいないのだろう。いればたちまち苦情になるに違
いない。二階はガラスが嵌まっている。間違ってガラスに当たれば、
この球威ではガラスが粉々に飛び散るだろう。少年は俺が見ている事
にも気付かずに無中で投げている。将来野球選手になる事を夢見て投
げ続けているのかも知れない。多分この子の親は共働きで、長い夏休
みの間、遊び相手もいないで一人で黙々と投げているのかも知れない。
俺が三十分間この子の相手をしたらどうか。この子の親は自分の職場
の近くで、他の子の相手をする。回り回って俺の子の相手を、どこか
の親がする。白昼夢だ。俺は冷たいお茶を一気に飲み干すと、バイク
に跨がって走り出した。
 クタクタになって帰局すると、光化学スモッグ警報が発令されたの
で、うがい、点眼をして下さいと、班に一個づつ目薬を配っている男
がいる。目薬が共用なのだ。感染の可能性を考えないのか。点眼しな
いで冷水で良く洗いうがいをして席に戻ると、課長に呼び出された。
公園でサボっていたな、こういう時代だから、世間の目は厳しいんだ
からな、今度したら処分は覚悟しろよ、とりあえず始末書を書け。そ
れだけ言うと反論されるのを恐れてか、サッサと行ってしまった。少
年の相手をする奴はいないが、俺が水分の補給をしていた二三分に我
慢が出来ないで電話した奴がいたのだ。
==============================================================
この話題についてのご意見ご感想、情報をぜひ掲示板に!
http://www.libro-koseisha.co.jp/top09/top09.html
==============================================================
 千年紀文学は、隔月刊。28号は安里英子、綾目広治、原仁司、小畑
精和、円谷真護、森川雅美、後藤秀彦、新藤謙、萩ルイ子、小林広一、
小林孝吉、宇波彰、鍋島幹夫さんが執筆。1部390円(〒共)。
年間購読料2,000円です。お申し込みはinfo@libro-koseisha.co.jp
まで。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●森田への励まし・ご提案・叱責は、掲示板ではなく直接、
 hana@libro-koseisha.co.jpまで。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●ご登録・解除は
 http://www.libro-koseisha.co.jp/mail/link01.htmlまで。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
このメールマガジンは転送歓迎です。記事の引用・転載も自由ですが、
社外の筆者の著作権は執筆者にあります。著作権者の権利を損なわな
いようご配慮ください。
■■■■■■■■■■■■ 皓星社通信 ■■■■■■■■■■■■
                        2000.09.28 No6